D*H

□present for you
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「何、なの。コレ。」


「え?恭弥にdono、だよ。」



【present for you】




「ciao!」

応接室の扉が開いた。

立っていたのは、予想通り、金髪の男。

その苛立つばかりの爽やかな笑顔は、とてもその男をマフィアのボスだとは思わせないほどの効果はある。
それが狙いなのかと、一時は思ったこともあったのだが。
どうもそうではないらしく。この笑顔は、天性のものらしい。

その事実が、更に僕を苛立たせてはいるのだけれど。

そんなことは今はどうでもいい。

問題はそんなことではなくて。


「会いたかったよ、恭弥。」

僕が、この男に。
イタリアンマフィア、キャバッローネファミリーのボスであるこの男に。

心乱されていることが、一番の問題なのだ。


数ヶ月前までは、ただの家庭教師だったこの男。
跳ね馬のディーノ、とかいうふざけた名前を携えて、僕に戦闘のノウハウを教えて行った。

そのおかげで僕は更なる強さを手に入れることが出来たのだが。

あの戦いが終わった後。
いや、前兆はそれ以前にもあったのかもしれないけれど。

この跳ね馬は。
信じられない行動を取った。

キス、と呼ばれるその行為を。
僕の唇へと行ったのだ。

それからは、顔を見るたびに僕にそれを仕掛けて来て。

嫌がらせと言わんばかりに、愛の言葉を囁く。

それは今日。
この瞬間も然りで。


そんなことをする人間など、以前の僕なら有無を言わさず咬み殺していたのだけれど。


「…何、なの。」

どうも僕は、それを未だに一度も出来ないでいる。

力で叶わないこともその理由の一つなのかもしれないが。
それ以前に。

悪い気がしないのだ。

キスをされることや、愛の言葉を囁かれることに。

どうかしているとは自分でも思うのだけれど。



「あ、そうだ、恭弥。」

そんなことを考えていると、跳ね馬は僕に大きな紙袋を手渡した。

「何、なの。コレ。」

不信に思って尋ねてみれば。

「え?恭弥にdono、だよ。」

また、訳の分からない単語を口にする。

きっとイタリア語なのだろうが、生憎、日本の中学生にイタリア語を学ぶ機会はまるでなく。
英語のように簡単な単語すらも理解が出来ない。

「何、“どーの”って。」

そう思ってまた尋ねると、

「あぁ、なんだっけ?present、は通じるか?」

彼は困ったような笑顔を見せて、そう言った。

「僕にプレゼント?」

気が利くね、ってそう言えば。
ああ、って彼はまた満面の笑顔を見せた。


そうして僕は受け取った紙袋の中身を取り出す。
入っていたのは白い箱で、そこにも英語かイタリア語か。
アルファベットで何かが書いていた。

ブランド名?

なんだかわからないけれど、このロゴの装飾具合から見て、きっとそうなんだろう。

だけど、僕にはそんなもの関係ない。
たとえどんなに高価なものだとしても、僕が気に入らない物など、全くの価値がないのだから。

尤も。
お金をかけない贈り物など、受け取るにも値しないのだが。

そうして、開けた白い箱の中には。

藍色の、ジーンズパンツだと思われるものが入っていた。

ジーンズなんて、僕の趣味ではないことぐらい、この跳ね馬は熟知しているはずなのに。

「どうして?」

これ、なのだろう。


「普段の格好も可愛くて好きなんだけどさ。たまには、お前も15歳らしい格好したらどうかと思って。」

尋ねてみれば、返って来た答えはそんなもの。

ジーンズが15歳らしい格好だなんて。
この跳ね馬の考えは本当に偏っている、と思う。

それでも、悪くないかもしれないと、そのジーンズを箱から取り出した。

その瞬間。

僕の目には信じられないものが映し出されたのだ。

「…ねえ、ディーノ?」

珍しくその名を呼んだことに、何か腹立たしい勘違いをしたのか、目の前の男は目を輝かせる。

その様子に僕は怒りを覚え。
冷ややかな目線と共に、尋ねる。

「これは、僕を侮辱しているのかな?」

ジーンズの丁度膝近くを指差せば、跳ね馬は不思議そうな顔をして。
かっこいいだろ、などと言い放った。

どこが。

かっこいいのだろうか。


この。
穴の開いたジーンズのどこが。


「この穴は、あなたが開けたの?」

僕の眉間には自分でも分かるほど皺が寄り。
不快感を露にする。

「…恭弥?」

そうすればとうとう、跳ね馬も僕が怒っていることに気がついたのか。
その顔に曇りが現れた。

「いい度胸だね。そんなに咬み殺されたかったんだ。」

目には全く笑顔を出さず、口元だけで僕が笑うと。
跳ね馬は何かを悟ったのか、必死で言葉を発する。

「ちょっと待て、恭弥!それ、ダメージジーンズだぞ!高かったんだって!」

…ダメージジーンズ?
…イタリア語?

訳の分からない単語を口にする跳ね馬に、僕の苛立ちは更に悪化する。

「…咬み殺す…!!」

僕がトンファを構えると、跳ね馬の焦りは更に増して。

「お前、見たことねぇのかよ!穿いてるだろ、ジャポネーゼも!」

そう大声で言った。

「貧乏人が、でしょう?」

穴の開いたジーンズを身に付ける人間は、僕も何度か見たことがある。
あの、獄寺隼人も穿いていた気がするが。

あれは、貧乏だから。
お金がないから、穴の開いたものでも穿くしかないのだろう。

そう、信じて疑わなかったのに。
いや、僕が間違っているだなんてあり得ないのに。

「ははははっ!!きょ…恭弥お前…っ!おもしろ…すぎ…っ!!」

僕の言葉を聞いた跳ね馬は、あろうことか大きな口を開けて笑い出した。

「…なに。」

その笑い声があまりにも心からのものだったので。
僕は咬み殺す気もすっかり失せてしまい、トンファをしまった。

「お前…、本当に、世間知らずだな。」

笑うことをやめられないのか、跳ね馬は時々変な息遣いをしながらそう言う。

この僕が世間知らず?

聞き捨てならないその言葉に、僕はもう一度トンファを構えようとしたのだけれど。

「好きだよ、そういうところも。」

そう笑った彼の顔を見て、僕は動きを止めてしまった。

好きだとか、愛しているだとか。
この男は本当に簡単に口にする。

日本語然り、イタリア語然り。

どうしてそこまで恥ずかしげもなく言えるのだと、尋ねたこともある。

国柄も勿論含まれるのかもしれないけれど。

その時彼は、平気な顔をしてこう言った。

“恭弥だからだよ”と。


そんな日のことを思い出して、僕は手にしたジーンズパンツをもう一度眺めて見た。

これが、高いのだろうか。
この、穴の開いたものが価値を持っているのだろうか。

穴を開けるのに、それ相応の技術なんかが必要とされるのだろうか。


色んなことを考えていると、跳ね馬が不意に、穿いてみろよ、と言うから。
僕はそのジーンズパンツを履いてみることにした。

上に着ていたのは、学ランに形が似ているという理由で購入した、黒のハイネック。
そこに、この藍色のジーンズパンツを穿いてみる。

同じ男同士ではあるけれど。
何故だか着替える姿を見せたくなかった僕は、少し離れた場所でそれを穿き。

跳ね馬に、それを見せた。


「似合うぜ、恭弥。」

流石と言うかなんというか。
サイズだけは本当にぴったりで。

一体いつどこで情報を手に入れたのかと、疑いたくなるほどだった。


「…やっぱり、貧乏くさい。」

改めて鏡を見た僕は真剣にそう思い。
跳ね馬を睨んではみたのだが。

目の合った跳ね馬は、眩しいくらいの笑顔を見せていて。

僕が、このジーンズパンツを穿いているのをあまりにも満足そうに眺めているから。




何も言えなくなってしまった。



本当にらしくない、とは思うのだけれど。

跳ね馬に心乱されている僕は。

ジーンズパンツに開いた穴を見下ろして。


なるほど、なかなか僕にも似合うかもしれないと思い始めていた。



「とりあえず、もらっておいてあげるよ、ディーノ。」

穿くかどうかはまだ、わからないけれど。



END








キャラソン第2段のジャケットの雲雀さんが、ダメージジーンズを穿いている!!
…ということで、ポンちゃんのお友だち、きいちゃんから頂いたネタです。

あーこはあまり…というか、全くダメージジーンズというものを穿いたことがないので、メーカーとかがロクに分からず…;;
そのあたりが曖昧ですいません;;

きっと、とんでもなく高いモノです。
イタリア製の(適当)

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
きいちゃん、本当にどうもありがとうございました!

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