8059・その他
□寂しさの代わりに
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僕も十分、バカ、だと思う。
野球は、出来ないけれど。
【寂しさの代わりに】
「…っ、や、ぁ…っ、」
「そんなに気持ちいい?」
「っ!…やめ…っ」
「お前ってほんと、誘い上手だよな…。」
「…ッぁ…、あ、ディ、ノ…っ!」
意識が、完全に飛んでしまった訳ではない。
ちゃんと、認識だって出来ていたんだ。
外見が似ている訳でもなければ、歳も、体つきも、声も。
なんだって別物で。
それなのに。
伸ばした手の先にある温もりを、あの人のものだと勘違いして。
そう、思い込もうとして。
堪能して、摩り替えて。
よがった。
「そんなに、あいつのことが好き?」
「…っ、」
「あいつはどうやって、お前を鳴かせんの?」
与えられる快楽は、僕の体に熱を持たせて。
繋がったそこから聞こえる音も、目の前の男の口から漏れる息遣いも、瞳を閉じているからこそ、余計に強く感じられた。
それでも、開けることを拒み続ける瞳からは、生理的な涙が溢れ出る。
「目、開けねえの?」
その涙を指で拭った男はそのまま軽く、一度だけ僕に口付けて。
「恭弥。」
耳元でそう、囁いた。
「おはよう。」
爽やかな笑顔はいつもの彼。
周りにいる、草食動物たちに向けるその顔。
昨晩の情事中の面影など、まるで見せることのないその表情は、僕の心から罪悪感を奪う。
手際良く、辺りに散らばる自分の服を拾っては身に付け。
携帯電話で時刻を確認すると、男は鞄を手に持ち、部屋を、出て行こうとした。
「何?」
「部活だよ。決まってんだろ?」
今日は確か休日で。
だからこそ、彼はこの場所…僕の部屋で一晩を過ごして。
「野球部ってそんなに練習してるの。」
「知らねーの?風紀委員長なのに。」
疑問に思って尋ねた質問の答えはあっさりと返されて。
もう、時間だからと、今度こそ、彼は僕を残して部屋を出て行った。
「野球バカ、ね。」
彼の友人、なのかなんなのか。
いつも側にいる獄寺隼人が彼を呼ぶときに使う、代名詞。
それ程までに、彼の頭の中は野球でいっぱいで。
他の草食動物と同じ、群れることしか出来ない人間だと思っていた。
それなのに。
あの男、山本武はとんでもない本性を持っていて。
寂しいの?
なんて僕に近づいて来たんだ。
僕と山本武は別に、そういう、関係なんかじゃない。
僕とそういう関係にあるのは寧ろ、彼ではなく家庭教師のイタリア人、ディーノの方で。
滅多に口には出さないが、僕が愛しているのも、ディーノで間違いないのだけれど。
相手は大人で、マフィアのボスで。
住んでいるのは遠く離れた外国で。
会える時間なんて、本当に限られていて。
それこそ電話だなんだと、直接顔を合わせないで愛の言葉を囁くことに止まることが多い。
体の関係だって、まだ、数えるほどしかなくって。
寂しい、のは事実だったのかもしれない。
本当はもっと、顔を見たくて。
その体温に触れたくて。
だけど、言い出せなくて。
そんなときに囁いたんだ。
あの、野球バカ、が。
『寂しいの?』
そうじゃない、とはっきり言えなかった。
『付き合ってんだろ?ディーノさんと。でも、なかなか会えない。』
君には関係ない、それだけで精一杯で。
『代わりに、なってやろうか?』
いつもとは違う、大人びた笑顔に逆らうことが出来なかった。
普段は僕のことを雲雀と呼ぶ彼も、情事中はあの人を真似してなのか、“恭弥”と呼ぶ。
代わりになると、言ったのだ。僕だって、彼の名を呼んだことはない。
それでも彼は、あの人と自分とを区別させようと言葉を掛けて。
矛盾、しているんだ。
僕も、彼も。
結局体を重ねた回数は、ディーノよりも山本武の方が上回って。
彼が僕を好いているのだと、気付いて。
それでも、僕は気付かない、ふりをして。
こんな関係がずるずると、いつまでも続くなんて思っていない。
きっとすぐにでも、このことがディーノにバレて。
愛想をつかされるんじゃないかと思う。
会えない、あなたが悪いんだよ。
そう、言うことが出来ればいいけれど。
「…雲雀…っ!」
そんなことをぼーっと、ベットの上で考えて。
それこそ、一糸纏わぬ姿でそこにいて。
開いた扉に目を向ければ、そこには、血相を変えた、山本武が立っていた。
「…なんなの、部活に行ったんじゃないの?」
「いや、それが…」
「よ、恭弥。久しぶり。」
神様なんて、信じる僕じゃないけれど。
もしも、そんな存在がいるのなら。
「どうして…あなた、何も連絡…、」
「恭弥を、驚かそうと思って…さ。」
今すぐにでも咬み殺してあげたいよ。
END
最近こんなのばっかりですね(笑)
ディノヒバ←山本的な感じで、気持ちは…。
っていうか、雲雀さんのお家はベッドでなく、お布団だと思うのですが。
お布団の情事って、なんだかビジュアル的にまぬけ…じゃないですか?(失礼)
畳に着物なら、萌えます…が!←想像した
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
2009.2.26
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