8059・その他
□恋は盲目
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「なあ、これ。」
「ん?」
「今年の、バレンタイン。」
「さんきゅ。」
「3倍返し、な?」
「分かってるって。」
【恋は盲目】
慣れて、しまったことが恐ろしいような気がする。のだけれど。
仕方がない。
もう5年近くもこんな関係で居れば、嫌でも、いや…嫌ではないから、か。
安心感も、居心地の良さも、現れる訳で。
少しずつ絆されていったのかなんなのか。
甘えることまで覚えてしまって。
ガキの頃からそんなことを知らずに育ったからこそ。
手に入れたその場所は酷く、魅力的なもののように思えた。
そうして恥ずかしい、のだけれど。
コイツの前でだけ俺は。
「武、」
「なに隼人、まただっこ?」
「ん、」
それこそガキのように、全力で甘えて。
縋って、触れて、しがみついて。
その体温をずっと感じていたいなんて、思うようになった。
手渡した、チョコレート。
今年はケーキ、に挑戦してみたりして。
バレンタインデーなんて、普通なら花束なんかを渡すんだろうが。
どうやらジャッポーネは違うらしい、と知って。
女が男にチョコレートを渡す日なのだと聞かされた。
俺たちが、そうなって初めてのバレンタインデーに、あの頃はまだ野球バカと呼んでいた武が、俺にそれをくれと要求して。
最初は、本当に、俺は女じゃないと怒ったり、買いに行くのが恥ずかしくて何度も店の前を通ったりしていたのだけれど。
いつから、なんだろう。
なんの、抵抗もなくなって。
あいつの、喜ぶ顔だけが見たくなって。
だから今年も、ケーキを作ってやろうと思い立って。
台所に立ったりもして。
出来上がったケーキは、少しだけ、形は悪いのだけれど。
それでも、それを、手渡して。
「うまいか?」
「うん、うまい!」
「それなら…良かった。」
「隼人も食う?」
コイツの膝の上はもう、俺の特等席。
どこのバカ女だ、なんて自分自身に言いたくなることもあるのだが。
恋は盲目、なんてよく言ったもの。
誰も見てねえなら、別にいいだろ?
「お礼…、」
「分かってるよ、3倍返し、だろ?」
「いや、」
甘い口付けで、もう十分だ。
END
甘える隼人くんが書きたかっただけです。
バレンタインデーはとっくに過ぎ去りましたが;;
子ども時代に出来なかったことを、山本相手にしていればいい(笑)
よく彼女に母親を重ねると言いますが…獄寺くんの場合は、山本に父親も母親も重ねる感じで…!
ここまでお読み頂きありがとうございました。
09.02.24
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