8059・その他

□卒業
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卒業、なんて。
考えてみれば、人生の、ほんの数年の生活にピリオドを打つだけの話で。
きっと、何年後、何十年後になってみれば“ああ、そんなこともあったな”って、それぐらいの出来事なんだろうけど。

でも、それでも。
もうすぐそれを迎えようとしている本人たちにとってみれば、それは限りなく、大きな転機で。

世間で言われるように、喜びとか、不安とか。
色んな感情が交じり合ってるのは、確かにそう、ではあるけれど。


「寂しい、な。」

一番に来る感情は、どう考えてもそれで。

今まで毎日、当たり前のように訪れていた日常が終わるのかと思うと、なんだか少し、不思議な感じがして、
意識すると、ああ、これで最後なのかってことあるごとに考える自分がいる。

例えば、遅刻ギリギリで門に滑り込むことだとか。
屋上で食べる弁当だとか。
眠気を誘うものでしかない、先生の、授業だったり。
それこそ、『また明日な』って交わす言葉だって。

それがどれだけ、くだらないことでも。

考えれば考えるほど、何もかもをも記憶の中にとどめておきたくて。
写真にでも、抑えようか、なんてカメラを持ち出してみたりもしたんだけど。

だけど、そう、じゃないんじゃないかって、思ったりもして。

いつもと同じように毎日を送ることが、何よりも大切なんじゃないかって、悟って。
だから、俺は、今日も。

「…んだよ、しんみりした顔しやがって。」

いつもみたいに、コイツにくだらない悪戯を仕掛けて、怒らせて。
それで、喧嘩しながら登校しようと、計画を立ててはいたんだ。

でも、

玄関の扉を開けるその瞬間に。

本当の本当に、今日が最後なんだって再確認したら。
なんだか無性に泣きたくなって。

それを無理矢理に押さえ込んで、笑顔で、コイツの待ついつもの場所へ足を進めても、やっぱりダメで。

開口一番、言ってしまった本音に、コイツはいつもみたいに眉間に皺を寄せて俺を睨んだ。


「いや、だって、卒業だろ?」

「てめぇ…、意外と女々しいんだな。」

「獄寺はなんとも思わねぇのかよ。」

「野球馬鹿とは違ぇんだよ。」


足先を、並中の方へ向けて。
俺たちは並んで歩き出す。

丁度半年くらい前、だっただろうか。
野球部を引退して、朝練のなくなった俺が、ツナや獄寺と一緒に登校するようになってすぐ。
ツナは笹川との恋を成就させて、必然的に、俺たちは2人で毎日並中への道のりを歩くことになった。

10代目命の獄寺のことだ。
俺と2人でなんて、嫌がってすぐに一人登校になるのかと思ったんだけど。


どうやら、少しは自覚をしていてくれているらしい。
俺と、そういう関係だってこと。

ツナが笹川の心を手に入れるより少し前に。
俺は獄寺の心を手に入れた。


駆け引きなんて、思春期に似つかわしくないような回り道をして。
だけど、それでも、通じ合って。



そう言えば、そうか。
それもこれも並中での出来事。

獄寺に始めて会ったのも、
告白したのも、

何もかも。



「でも、さ。もう会えなくなるんだぜ?俺ら。学校でさ。」

「ああ、まあそうだな。」

「獄寺はツナと同じ高校だしさ。」

「てめぇは推薦だろ?いいじゃねーか、やるんだろ?また野球。」

「そうだけど、よ。」


そういう、ことじゃない。と思う。


そうか、そうだよ。
もう、会えないんだ、獄寺と。学校で。

おはよう、って挨拶することも。
弁当の取り合いをすることも。
人前で、手を繋ごうとして、怒られることも。

「やっぱり、寂しくね?」

「お前なぁ…。」

ダメだ。
考えれば考えるほど、今までのこととか、色々思い出して。


そう言えば、入学式には獄寺はいなかったんだな、とか。
ツナとも知り合ってなかったんだとか。

野球部だって、レギュラー取るのに必死で頑張って。
知らない間に置いていかれた勉強も。

何もかも。
大切で愛しくて、かけがえのないもののように思えて来た。

「ほら、だって、この道だって2人で通るの最後だろ?」

「言い出したらキリねぇだろ、そんなこと。」

「でも、」

「でももだってもねぇだろ。何が変わるっつーんだよ、卒業して。」

何がって、変わるだろう?何もかも。

服装1つ取ったって、もう、このブレザーに袖は通さないんだ。
鞄も、きっと変わるだろうし。

そう思って言葉に出せば、獄寺はふ、と声に出して笑って。

「だから、てめぇは野球馬鹿っつーんだよ!」

そんなことを、大声で言われた。


「確かに、制服は、変わるし、鞄も変わるけどよ。だからって何なんだよ。てめぇはじゃあ、俺と学校で会わなくなったら、それで終わりなのか?もう、俺とは会わねぇのかよ。」

「そんな訳ねーだろ!会うよ、俺は獄寺と。毎日だって、会いに行く。」

「だったら、それでいいだろ。」

「え?」

「卒業して、環境は変わって、だけど、変わらねーんだろ?俺を、」

獄寺?

「俺を…そう、思ってることだよ。」

「好きって?」

「ああ、」


そんなの、変わる訳がない。
俺は、多分、ずっと獄寺が好きで。
いつまでも、一緒に笑い合っていたいと思う。

並中で手に入れたこの気持ちは、ずっと…


ああ、そうか。


「獄寺!」

「…んだよ急に」

「俺、お前が好きだ!」

「は?」

「愛してるのな!」

「ば、てめぇ、こんなとこで何言って…」



卒業は、ピリオド。
それまでの当たり前の生活に打つ終止符。

服装も、鞄も、生活のサイクルも。
変わってしまうものは確かにあるけれど。

あるんだ、変わらないものも、たくさん。


3年間で築き上げたもの。
野球の腕だったり、人望だったり、戦闘能力だったり。

獄寺への、気持ちだったり。


それはいつまでも俺の中にあって。


もう、並中に通うことはないけれど、俺はずっと俺だから。

変わらない、俺のままだから。


「行こうぜ、獄寺!」

「ちょ、引っ張るんじゃねー!!」



卒業なんて怖くない、よな?




END





何、これ←
あーこがもうすぐ卒業なので、気持ちを代弁していただきました。

なんとなく、やまごく新曲も意識してみました…(玉砕ですが;;)
なのでいつもより山本が子どもです(笑)

卒業とか、そういう節目に弱いです。
そう言えば、高校卒業のときにもこんな小説を書いた気が…。(他ジャンルですが…)
考えることはいつも同じです。成長しない…orz

卒業を迎える方、迎えた方、楽しんで頂ければ幸いです。
お読みいただきありがとうございました。

2009.1.15 

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