8059・その他
□卒業
1ページ/1ページ
卒業、なんて。
考えてみれば、人生の、ほんの数年の生活にピリオドを打つだけの話で。
きっと、何年後、何十年後になってみれば“ああ、そんなこともあったな”って、それぐらいの出来事なんだろうけど。
でも、それでも。
もうすぐそれを迎えようとしている本人たちにとってみれば、それは限りなく、大きな転機で。
世間で言われるように、喜びとか、不安とか。
色んな感情が交じり合ってるのは、確かにそう、ではあるけれど。
「寂しい、な。」
一番に来る感情は、どう考えてもそれで。
今まで毎日、当たり前のように訪れていた日常が終わるのかと思うと、なんだか少し、不思議な感じがして、
意識すると、ああ、これで最後なのかってことあるごとに考える自分がいる。
例えば、遅刻ギリギリで門に滑り込むことだとか。
屋上で食べる弁当だとか。
眠気を誘うものでしかない、先生の、授業だったり。
それこそ、『また明日な』って交わす言葉だって。
それがどれだけ、くだらないことでも。
考えれば考えるほど、何もかもをも記憶の中にとどめておきたくて。
写真にでも、抑えようか、なんてカメラを持ち出してみたりもしたんだけど。
だけど、そう、じゃないんじゃないかって、思ったりもして。
いつもと同じように毎日を送ることが、何よりも大切なんじゃないかって、悟って。
だから、俺は、今日も。
「…んだよ、しんみりした顔しやがって。」
いつもみたいに、コイツにくだらない悪戯を仕掛けて、怒らせて。
それで、喧嘩しながら登校しようと、計画を立ててはいたんだ。
でも、
玄関の扉を開けるその瞬間に。
本当の本当に、今日が最後なんだって再確認したら。
なんだか無性に泣きたくなって。
それを無理矢理に押さえ込んで、笑顔で、コイツの待ついつもの場所へ足を進めても、やっぱりダメで。
開口一番、言ってしまった本音に、コイツはいつもみたいに眉間に皺を寄せて俺を睨んだ。
「いや、だって、卒業だろ?」
「てめぇ…、意外と女々しいんだな。」
「獄寺はなんとも思わねぇのかよ。」
「野球馬鹿とは違ぇんだよ。」
足先を、並中の方へ向けて。
俺たちは並んで歩き出す。
丁度半年くらい前、だっただろうか。
野球部を引退して、朝練のなくなった俺が、ツナや獄寺と一緒に登校するようになってすぐ。
ツナは笹川との恋を成就させて、必然的に、俺たちは2人で毎日並中への道のりを歩くことになった。
10代目命の獄寺のことだ。
俺と2人でなんて、嫌がってすぐに一人登校になるのかと思ったんだけど。
どうやら、少しは自覚をしていてくれているらしい。
俺と、そういう関係だってこと。
ツナが笹川の心を手に入れるより少し前に。
俺は獄寺の心を手に入れた。
駆け引きなんて、思春期に似つかわしくないような回り道をして。
だけど、それでも、通じ合って。
そう言えば、そうか。
それもこれも並中での出来事。
獄寺に始めて会ったのも、
告白したのも、
何もかも。
「でも、さ。もう会えなくなるんだぜ?俺ら。学校でさ。」
「ああ、まあそうだな。」
「獄寺はツナと同じ高校だしさ。」
「てめぇは推薦だろ?いいじゃねーか、やるんだろ?また野球。」
「そうだけど、よ。」
そういう、ことじゃない。と思う。
そうか、そうだよ。
もう、会えないんだ、獄寺と。学校で。
おはよう、って挨拶することも。
弁当の取り合いをすることも。
人前で、手を繋ごうとして、怒られることも。
「やっぱり、寂しくね?」
「お前なぁ…。」
ダメだ。
考えれば考えるほど、今までのこととか、色々思い出して。
そう言えば、入学式には獄寺はいなかったんだな、とか。
ツナとも知り合ってなかったんだとか。
野球部だって、レギュラー取るのに必死で頑張って。
知らない間に置いていかれた勉強も。
何もかも。
大切で愛しくて、かけがえのないもののように思えて来た。
「ほら、だって、この道だって2人で通るの最後だろ?」
「言い出したらキリねぇだろ、そんなこと。」
「でも、」
「でももだってもねぇだろ。何が変わるっつーんだよ、卒業して。」
何がって、変わるだろう?何もかも。
服装1つ取ったって、もう、このブレザーに袖は通さないんだ。
鞄も、きっと変わるだろうし。
そう思って言葉に出せば、獄寺はふ、と声に出して笑って。
「だから、てめぇは野球馬鹿っつーんだよ!」
そんなことを、大声で言われた。
「確かに、制服は、変わるし、鞄も変わるけどよ。だからって何なんだよ。てめぇはじゃあ、俺と学校で会わなくなったら、それで終わりなのか?もう、俺とは会わねぇのかよ。」
「そんな訳ねーだろ!会うよ、俺は獄寺と。毎日だって、会いに行く。」
「だったら、それでいいだろ。」
「え?」
「卒業して、環境は変わって、だけど、変わらねーんだろ?俺を、」
獄寺?
「俺を…そう、思ってることだよ。」
「好きって?」
「ああ、」
そんなの、変わる訳がない。
俺は、多分、ずっと獄寺が好きで。
いつまでも、一緒に笑い合っていたいと思う。
並中で手に入れたこの気持ちは、ずっと…
ああ、そうか。
「獄寺!」
「…んだよ急に」
「俺、お前が好きだ!」
「は?」
「愛してるのな!」
「ば、てめぇ、こんなとこで何言って…」
卒業は、ピリオド。
それまでの当たり前の生活に打つ終止符。
服装も、鞄も、生活のサイクルも。
変わってしまうものは確かにあるけれど。
あるんだ、変わらないものも、たくさん。
3年間で築き上げたもの。
野球の腕だったり、人望だったり、戦闘能力だったり。
獄寺への、気持ちだったり。
それはいつまでも俺の中にあって。
もう、並中に通うことはないけれど、俺はずっと俺だから。
変わらない、俺のままだから。
「行こうぜ、獄寺!」
「ちょ、引っ張るんじゃねー!!」
卒業なんて怖くない、よな?
END
何、これ←
あーこがもうすぐ卒業なので、気持ちを代弁していただきました。
なんとなく、やまごく新曲も意識してみました…(玉砕ですが;;)
なのでいつもより山本が子どもです(笑)
卒業とか、そういう節目に弱いです。
そう言えば、高校卒業のときにもこんな小説を書いた気が…。(他ジャンルですが…)
考えることはいつも同じです。成長しない…orz
卒業を迎える方、迎えた方、楽しんで頂ければ幸いです。
お読みいただきありがとうございました。
2009.1.15
.