8059・その他

□蝶
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【蝶】

ひらり

部屋の中を蝶が舞う。


どこから入って来たのだろう、その美しい姿はこの部屋には酷く不釣合いで。

だけど、だからこそ、酷く目立って見えた。


「ちょうちょ…。」

壁にもたれかかったまま、僕がそう呟けば。
それを聞いていたらしい、隣に座る男は言葉を返す。

「ほんとだ、どっから入って来たんだろうね。」

その男が手を伸ばせば、その蝶はその男の指にとまり。
まるで蜜を吸うかのように動かない。

「花ばっかり触ってるから、間違えたんじゃないんですか?」

僕の言葉にふふ、と笑うその男は、そのままその手を動かさずに、蝶を眺め。

「僕は花じゃないよ、ちょうちょさん。」

まるで幼児に話し掛けるような優しい口調で、指先の小さな命に話し掛ける。
僕はそんな彼の声を聞きながら、その肩に体重を預けた。

「どうしたの?君も、間違えちゃった?」

その振動で揺れてしまったらしいその男の指先からは蝶はもう居なくなっていて。
また、先ほどのように、この部屋を飛び回る。

「もう、出れませんね、あのちょうちょ。」

「そうだね。ほんと、どこから入って来たんだろう?」

2人して、その蝶の行方を追って。
もう二度と陽を浴びることはないのだろうと、少しばかり哀れんでみる。

それでも、それは仕方のないことだと、どこからか入り込んだ蝶に言い聞かせて。

そうしてまた、僕が呟く。

「悪く、ありませんよ。ここで、一生を終えるのもね。」


そんな僕に、男は軽く、その身を起して口付けて。
力一杯に僕を抱きしめた。

「…ねえ、どうすればいいと思う?」

「何が、ですか?」

突然に掛けられた問い。
その真意が分からず僕が尋ねれば。

「僕と、君が幸せになる方法。」

男はそんなことを、まるで独り言のように小さく囁く。

「…ありませんよ、そんなもの。」

少しばかり呆れたように、僕はそう返事をして。
そうすれば男は、そうだね、なんてまた笑顔を見せた。


「本当にあなたは、花、のようです。あのちょうちょが間違えるのも無理はない。」

そんな笑顔を見て、僕は心から感じたことを告げる。

「風に揺られて、抵抗もなくて。来るもの拒まず、去るもの追わず。そのくせ、甘い蜜で誘惑する。」

言い終わる頃にはなぜか、僕の目尻には涙と呼ばれる水が溜まっていて。

「じゃあ、君は僕に誘惑されたの?」

そう尋ねる彼の顔をはっきりと見ることが出来なかった。

「あなたのその甘い蜜に、つられたんですよ…。そして、離れられなくなった。」

視線は蝶を追いながら。
それでも言葉は男に向ける。

「こんなに、愛してしまうなんて…。」

「想定外?」

「なんでしょう…?あなたも。」

2人して顔を見合わせて。
どちらからともなく唇を合わせる。

離れた途端、僕はその胸に体を預けて。

手のひらの温もりを、背中で感じた。



「明日、彼らはここに来る。」

「そしたらもう、お別れですね。」



只の気まぐれだったのだと、思うことにした。
あの蝶のように、たまたま偶然に足を踏み入れてしまったこの場所。
そして、甘い匂いにつられて、ただ、近寄っただけ。


「愛していました。」

「愛していたよ。」

「あなたの、その温かさが。」

「君のその儚さが。」

「好きでした。」

「大好きだった。」


だけど、もう。
戻れはしない。

これは運命。


ここで、朽ちることが決まったあの蝶のように。

もがいてもどうにもならないモノ。




「明日はあなたを。」

「明日は君を。」

「必ず」

「この手で殺すから。」






「覚悟、していて下さいね、白蘭さん。」

「君も、だよ。骸くん。」




そう言って僕たちは。
お互いの温もりを感じたまま、眠りについた。





END







なんだ、これ…;;
すいません、暗い話が書きたかっただけです…。

白蘭vsボンゴレ決戦前夜、と思って頂ければ幸いです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。


08.10.7

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