8059・その他

□TOY
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獄寺が酷いです。
山本が可哀想です。
それでもよろしければ、お進み下さい。





誰が悪い、って。

俺じゃねぇだろ。


【TOY】


「お待たせ、獄寺。」

「遅ぇんだよ、野球バカ。」


放課後。

俺は部活動に勤しむ山本を教室で1人待ち続けていた。
時々、グラウンドを眺めては、その姿を探したりもしたが。
奴と目が合うことを恐れて、それも長くは続けなかった。

そうして、少しずつ時間が過ぎて。
日が低くなり、視線の先に綺麗な夕焼けが見えた頃。

泥だらけのユニフォームを身に付けたまま、山本は教室の扉を勢いよく開けて。
俺を迎えに来た。

悪態をついた俺に、奴はその太陽のような笑顔を見せて。
大きな手のひらでわしゃわしゃと俺の頭を撫でる。

そうして、悩みなんて何もないような大きな声で帰るか、と叫んで。

そのまま俺たちは帰路についた。


その道中は本当に、くだらないことを話し続ける。
とは言っても、言葉を発するのはいつも山本の方で。
俺はそーかそーかと、相槌を打つだけ。

それでも満足そうに笑う山本は、本当に、いつ見ても明るくて。


「なあ、山本。」

「ん?」


俺は褒美と言わんばかりに、その頬に口付けをくれてやった。


「ご…、獄寺?!」

目の前の山本は俺のそんな行為に本当に慌てていて。
トマトのように、なんて安っぽい形容詞が似合う程顔を真っ赤にさせている。

「たまにはいいだろ?」

そう俺が悪戯ぽく笑えば。
気をよくしたらしい山本は、そのまま俺を抱きしめた。


「…バカ、普通に道端だっての…。」

「いいじゃん、ちょっとくらい。」


そうしてしばらく恥ずかしげもなく、思春期特有の愛を囁き合って。
どちらからともなく足を進めて。

いつもの別れ道まで辿り着けば、別れがたくて次から次へと新しい話題を模索する。
それでも暗くなる空が別れの時を示唆すれば、俺たちはまた明日、と言葉を交わして。
互いに自宅への道を歩く。

それでも山本は何度も俺の方を振り返って。

千切れそうなくらい、手をブンブンと左右に振った。


「は、バカじゃねえの。」

そんな山本を見て、俺は呟く。

バカだ、本当に、アイツは。
生粋の、バカ。





俺と山本は、
所謂、そういう関係。

いつだったか、その熱い眼差しを持って告白された俺は。
もう殆ど2つ返事でOKして。

それから毎日、関係を深めて行って。

好きだの、愛してるだの。
言葉にするのは勿論のこと、態度で示すことだってしばしば訪れる。

今日、みたいに、俺から山本に何かを仕掛けることは少ないけれど。
それでも山本は俺の頭を撫でたり、抱きしめたり、その温かみを毎日与えてくれる。




でも。


だけど。





「お帰り、隼人。」


俺はアイツを、山本を心から愛したことなんて、一度もない。




「早いじゃねーか。」

「ああ、仕事がな、早く終わったんだよ。」


俺の帰る場所は、俺の拠り所はただ1つ。

コイツの、ところだけ。



隼人、と俺を呼ぶ甘い声を聞いて、俺は鞄をその辺りに放り出す。

ゆっくりと足を進めれば、その声の主はソファに座ったまま両手を広げて。
そこに俺は飛び込んで、その腕にぎゅっと抱きしめられた。



「シャマル…。」


いつから、なんてそんな生易しい関係なんかじゃない。

気がつけばコイツは、シャマルは俺の側に居てくれた。



俺のことを、真剣に、まっすぐに見てくれたのはいつだって、あの人…母親を除けばこのシャマルだけで。

甘えて、ぶつけて、なんだって受け止めてくれて。

憧れて、夢見て、近づいた。



女なんて知らない…いや、正確にはまだ知るはずのない年齢の俺に、先に手を出したのは間違いなくコイツだが。


ある程度成長して、その意味を知って。
神に背き、倫理すら保てない関係だと悟っても尚、受け入れ続けたのは、その心があるからで。

今ではもう、なくてはならない存在。

俺の全てを曝け出せる場所だった。




「またあの野球少年を待ってたのか?」


勿論、山本との関係だって容認済み。

告白されて、承諾の返事を返したその日の内に、俺はその事実をシャマルに話した。
その返事はそうか、の一言だけ。

そんなことにはもう、慣れていて。

幼い頃から愛人だなんだと女共に手を出すコイツをずっと側で見て来たからなのか。
母親のことで何か、諦めでもついたのか。

それは俺自身にも分からなかったが、相手に、どんな相手が居ようと気にならない人間に、俺はなっていた。

男の本来の欲求が、同じ男の俺に満たせるとは元来から思ってなどいないし。
ましてや、その器官すら持ち合わせていないのだ。

女と同じようなことを要求されるくらいなら。

そんなこともあったのかもしれない。



だから、俺もコイツと同じように、他の相手を今まで何人も作って来た。

シャマルに開発されたからなのか、それとも俺が幼いせいなのか。
寄って来る人間は殆どが男だったが、それも苦にはならず。

いつでも欲求が満たされるのなら、と日ごと相手を変えていた時期もあった。

日本に来てからは、それまでの、イタリアにいた相手とは全て縁を切ったが。

まさか、この日本で。
男が、しかも自分と同じ歳の人間が、男である俺に言い寄って来るなんて、想像もしていなかったところが実際のところだ。

想像もしていなかったが、それは断る理由にはならない。

求められるものはいつだって受け入れて来た。

だから今回も、あまり深く考えずに返事をしたのだ。


でも。


「アイツ…、いつまで経っても行動起こしやがらねぇんだよ…。」


所詮は日本の中学生と言うべきなのか。

本当に、あの、告白の日から、何ひとつ、それらしいことを持ちかけて来ないのだ。
手を繋ぐのも、肩を抱くのも、キスをするのも。
人一倍時間は掛かったが、それなりに程よい期間で進んで来たと思う。

それなのに。

もう、初めてのキスを交わしてから、随分たつと言うのに。


「部屋にすら呼ばれねーんだ?」

「…マジで意味わかんねぇ。」


とんだガキだ、とシャマルは笑う。

そうして、その右手で俺の髪を梳いて。
俺の唇に、自らのそれを合わせる。

軽い口付けを何度か交わして。
目が合った俺も、ふっと笑みをこぼした。

「大事にしてもらっても、だよなあ?隼人。」

シャマルの手はそのまま俺の後頭部へと進み。
その舌が俺の口内に侵入して来る。

開いた左手が俺の腰を優しく抱いて。

気がつけば俺はソファに座るシャマルの上に、向き合う形で座っていた。

「まあ、多分俺のこと、純粋無垢な人間、とでも思ってんじゃねぇの?」

「違いねぇ。」


そう思うなら、思えばいいのだ、が。

それはそれで山本自身の身を滅ぼすだけ、なのかもしれない。


山本は多分、いや、絶対に気付いていないのだから。
俺たちにとって、自分が、どういう存在であるのかを。



少しだけ見下ろした先にあるシャマルの額に、今度は俺からキスを送り。
そのままその首筋に噛み付いた。

「おいおい…、いきなりそれはないだろ。」

多少の文句は言われたものの、本気で拒否された訳ではないから、俺はその行為を進めて。

「いいじゃねーか、別に。」

序々に口を寄せる個所を下に下ろしていく。


そうして両手をシャマルのシャツにかけたところで。

「…ストップ。」

その手を掴まれて、俺の行為は制止を余儀なくされた。


「駄目なのかよ。」

吐き捨てるように俺がそう言えば、シャマルは俺の頭を撫でて。

「その前に、面白いことしようぜ。」

そう持ちかけて来た。





俺の手に握られたのは、携帯電話。
相変わらず俺はシャマルの上に座っていて、とは言ってもさっきとは逆向き、つまりシャマルには背を向けた状態でその腰を抱かれていた。

振り向いてその顔を覗けば、本当に楽しそうに笑いを浮かべていたから、俺は少しだけ呆れたのだけれど。

それでも、面白いことに変わりはないと、携帯電話のアドレス帳を開く。

探し出したのは、野球バカ、山本の電話番号。

きっと出るであろうその相手に、俺はなんの躊躇いもなく着信音を鳴らす。


「もしもし?」

そうして聞こえて来た声を聞いて、俺は微笑む。

「俺、だけど…。」

「獄寺?!」

本当に驚いたらしい山本の声。
電話に出る前にその主を確認しなかった辺りがアイツらしいと言えばアイツらしいが。

俺だ、と今流行の詐欺師のような言い回しで、俺だと気がつく辺り、相当俺に惚れているのだとも再確認する。


「あの、さ…。」

そんな山本の息遣いを電話越しに聞きながら、俺は言葉を続ける。

少し、恥らうような、そんな、演技を添えて。


「どうしたんだ?」

「いや、あの、な…。」

「ん?」


間抜けな面が安易に想像できるくらい、何も悟っていない声。
当然と言えば当然だが、ここまでとなれば、本当に、少しばかり哀れにすら思えて来る。


「山本は…よ…。」

「うん。」


少しずつ、言葉を繋いで、溜めて。


「俺のこと…、


欲しくねぇ?」

「え…?」


そこまで言い切った辺りで、俺の鎖骨には、シャマルの舌の感触が見受けられた。

今まで黙って俺の腰を抱いていた手にも、少しばかり力が込められていて。

目線だけで振り向けば、奴は笑顔を携えていたから。
それにつられて、俺も笑ってやった。


「獄寺…それってどういう…。」

受話器の向こうの中学生は何かをしっかり悟ったようで、ごくり、と唾を飲み込む音さえ鮮明に聞こえて来る。

「そのままの意味、だよ。明日の放課後、お前ん家行ってもいいか…?」

シャマルの舌の動きはさっきよりも確実に、それを引き出すものに変化していて。
少しだけ、卑猥な水音も耳に響く。
その右手は俺の腰から離れ、そのまま、俺の体を、衣服の上から彷徨った。


「獄寺…、本当に?」

「こんなこと…っ、嘘ついてどうすんだよ…。」

不覚にも反応してしまった、俺の上擦った声を、山本は泣いていると判断したのかなんなのか、どうやらその覚悟を決めたようで。


「…わかった。」

確実に、そう言い放った。


「明日の放課後、俺の家に来い、獄寺。」

そうして今度は優しさと甘さの詰まった声でそう囁いて。

「おう…。」

俺が返事をすると暫く、沈黙が続いた。


一呼吸置いて、それじゃあ、と俺が持ちかけると。
また明日な、という声が返って来て。

俺は、携帯電話の電源を切った。



「どうだった?野球少年の様子は。」

その動作と同時に、真後ろの大人は俺に尋ねる。

「わかった、だってよ。」

携帯電話をその辺に投げ捨てて、振り向けば、シャマルから、深いキスが送られて。


「じゃあ、明日はめでたく、隼人のバージン解禁か。」

はは、と声を出して笑われた。


「出来ると思うのかよ、アイツに。」

「いや?無理だろ。」

眉間に皺を寄せてそう問えば、あっさりと答えるその内容が可笑しくて。
今度は2人で笑った俺たちは、そのまま貪るような口付けを続ける。

さっきは、服の上から俺の体を探っていたその腕の冷たさを今度は直に感じ。


「ほんっと、悪い子だな、隼人は。」

「どっちが、だよ。」


そのまま俺は、その快楽に溺れていった。









体の関係なんて、まるで意味を持たない。

そりゃあ、奴との、シャマルとのそれは特別だと感じるが。

それでも、一番大切なのは心だろうと、そう思う。

俺はシャマルを愛してる。
シャマルも俺を愛してる。

その事実は何があったって変わらない。

だから俺たちは、こうして遊んで居られるんだ。

山本には悪いけど、俺は来るもの拒まず、な性分だ。
お前が俺を愛するように、俺はお前を愛することは出来ないけれど。

だけど、お前が俺を欲する限り、いい、遊び道具になってくれるよう願ってるよ。



さあ、山本。

お前はいつまで。

俺とシャマルの遊び道具でいてくれる?




END





すいません…!!
獄寺がなんだか黒くてごめんなさい!

シャマルとイチャつきながら山本と愛を囁き合う獄寺、が書きたくて書きたくて…。
気がつけば、山本がすごい可哀想なことになってしまいました
;;
シャマ獄←山 と表記すべきだったのかもしれませんが、山本に脈がなさすぎなので、あえてシャマ獄のみの表記にさせていただきました。

いや、でも、ここまで酷くするはずじゃあ…、なかったんですが。

シャマルは悪い大人だと思います(失礼)
獄寺に色んなことを吹き込んでいればいい。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

2008.8.17


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