8059・その他

□堕ちてやるよ、どこまでも
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アイツが

帰って来る度願う。

今日は誰も

獲り逃がしていませんように、と。



【堕ちてやるよ、どこまでも】



「ただいま、隼人。」

アジトの一室、とは言ってもプライベートの確保されたこの場所で
アイツと暮らすようになったのはいつだったか。

出会ってから、いくつかの年月が流れ。
気がつけばボンゴレは、10代目の時代へその歴史を進めていた。

俺は立派な10代目の右腕となり。

アイツは、野球バカを辞めた。

一度はプロを志したもの。
簡単に諦めきれる筈などまるでなく。

アイツは今も、
引きずっている。

それでも一度決めてしまった、こっちの世界に住むということ。

殺めた人間は数知れず。

もう、後戻りなど出来ない。


開いた玄関の扉は大きな音を立て、元へと戻る。

その音に確信を得た俺は。

リビングの椅子に座ったまま、動くことが出来なかった。


「はーやと、居るんだろ?」

羽織るジャケットのボタンを外しながら、アイツ…山本武は俺の方へと足を進める。

出会った頃とは異なる俺たち。
ライバルや友だち、親友を通り越して辿り着いた関係。

いつしか呼び名も変化して。
今では、お互いをファーストネームで呼び合うようになった。

「…武、おかえり。」

目も合わせないまま、俺は立ち上がり、茶でも入れようかとキッチンへ向かう。

「待てよ。」

そんな俺の腕を武は掴み。

そのまま、引き寄せた。

「分かってんだろ、今日も、だってこと。」

見据えられたその目には魂などまるで宿らず。
やっぱりそうかと心を決める。

「…何人。」

俺が尋ねれば

「2人。」

その目のまま、武は呟いた。

「…いいじゃねぇか、2人くらい…。100は、居たんだろ?」

「黙ってろ。」

俺の言葉なんか聞こうともしないで。
そう言うや否や、武は俺を寝室へと引きずり。
両手首をシーツへ縫いつける。

与えられた口付けは酷く乱暴で。
それでも、それに慣れてしまっている自分に嫌気が差す。

「殺り足りねぇんだよ…。」

初めて人を殺めたその日から。
武は変わった。

バットの代わりに剣を持ち。
ヒットの代わりに首を打つ。
歓声の代わりに呻き声を聞き、
打数の代わりに死人を数える。

皆殺しにしなければ気は治まらず。
1人でも獲り逃がせば

俺を

抱く。


優しく心の篭ったその愛撫を受けたのは、もうどれくらい前だったか。

今のそれはもう殆ど、本能の成すままで。

「…っ、…や…、めろ…っ」

俺の拒絶の声など、聞きもしない。

這わされた手は俺自身へ伝い。
快楽を引き出すべく上下する。

「ちゃんと感じてんじゃねーか、インラン。」

上がる口角は恐怖を与え。

「なん…っで…。」

こうなってしまったのかと後悔の念を呼び覚ます。

「お前のせいだろ、隼人。」

尋ねてしまえば返る答えはいつも同じ。

そうだ。

俺の、

俺のせいなんだ。






10代目が正式にドン・ボンゴレへと就任する1週間前。
10代目は“本当にマフィアになっても良いか、しっかり考えてほしい”と仰った。
一度決めてしまえば、もう二度と歩けない表の道。

幼い頃からその環境で育って来た俺やランボは良しとしても。

他の守護者には相当、覚悟のいる決断だった。

特に武に至っては、ずっとマフィア自体をガキのごっこ遊びだと信じて疑っていなかったんだ。
序々に気付いていったとは言え、その覚悟はまだ、半端なもので。

『なあ、獄寺はどうすんの?』

いつもの笑顔で俺にかけた問い。

『なるに決まってんだろ。俺は10代目をお守りするんだからな!』

精一杯のコイツの不安を俺は汲み取ることが出来なくて。

『そっか。じゃあ、俺も獄寺を守らねーとな。』

そんなことを言わせてしまった。

『せいぜいやられねーように気をつけろよ!』

まだ幼かった俺は、それが、コイツから本当の笑顔を奪ってしまうだなんて思ってもいなくて。
それが、コイツを人殺しにさせるなんて、思ってもいなかったんだ。






十分に慣らされることもなく、強引に押入ったモノ。

過去の記憶に意識を傾けている間にその行為は進み。

「…だから…っ、俺は…、お前のだから…っ」

気がつけば俺は、武を受け入れたまま、いつものように言葉を繋いでいた。

直に伝わる、その熱さと痛み。
意識すればするほど、自分自身を追い込む結果となり。

「俺は…っ、お前を捨てたり…しねぇから…っ…!」

我慢の限界と言わんばかりに放たれる快楽は、俺と武を、更なる深みへと突き堕とす。


「…良く言えました。やっと覚えたみたいだな。」

頭を撫でるその掌に、少しばかりの温もりを感じたものの、俺の中のそれは容赦なく振動を続け。

「…ぁ…っ、」

容赦なく欲を吐き出した。


荒く息を着き、俺たちはそのままの形でそこに倒れ込む。
交わされる口付け全てに翻弄されて。
俺の意識は朦朧とする。

乱暴に扱われたそこには、まだ少し、痛みが走り。

それでも、何一つ悪びれた様子もない武は、その凍りつくような笑顔を俺に向けた。

「…捨てんなよ、隼人。」


まるで蛇に睨まれた蛙のように。
目線一つで動けなくなった俺は、そんな武に微笑みを返す。
自分でも分かるほど魂を宿らせていない翠の瞳。

これをこいつは、どんな気持ちで眺めているのだろうか。


幸せだったあの頃。

確かに俺たちは愛し合っていた。



それが永遠なのだと疑いもせず。

人を殺めることで変わってしまうなんて、考えもせず。



こいつにとって、野球がどんな存在だったのか。
こいつにとって、マフィアがどんな存在なのか。

分かっているつもりでも、その本質まではまるで見抜けていなくて。




いつの間にか、野球への執念を殺しへ移していたなんて。

気がつかなかったんだ。




いつから、だっただろうか。

突然武は、俺に捨てられることを怖がるようになって。
捨てられないよう俺を縛るようになって。


いや、きっと、あの日、からだ。


俺が始めて、武の、今のように皆殺しを行う姿を見た、あの日。



多少の覚悟はしていたものの、あの野球バカだった頃とは比べ物にならないくらいの殺気と血の匂いに、俺は言葉を失ってしまって。

その中心に立つ武がまるで、別のもののように見えて。

どうすることも出来ないまま立ち尽くして。



だけど。

武はそんな俺に笑いかけたんだ。

あの、屈託のない笑顔。


“獄寺!今のホームラン、見てたか?!”


まるで、ガキの頃のそんな笑顔。


『違う…なんで…お前…』

ようやく出た俺の言葉は、そのときの武を拒否するもので。

初めて武を怖い、と感じてしまった故に出た言葉。



そんな俺を見て、武は初めて。

俺を、

本気で殴った。



喧嘩を繰り返していたあの頃とは比べ物にならないくらい。
明らかに殺意の混じったそれ。


その瞬間。

奴から、本当の笑顔が消えて。

奴は、俺に捨てられるのを怖がるようになった。



「好きだぜ、隼人。」

俺の銀の髪をとく手はやはり乱暴で。
そのまま少しの力で引っ張られる。

痛みに顔が歪めば。


「今度こそ、絶対勝つよ。皆殺しだ。」


低い声が俺の全身を貫いた。





ああ、どうしてお前は。

どうして俺は。



こんなにも堕ちてしまったのだろう。




人間はボールじゃない。
刀はバットじゃない。


過去のいくつもの場面にいくら後悔を抱いても。

それはもう取り返しのつかないことで。



いずれにせよ、俺のせいで、こんな大人になってしまった山本武を。

俺は、これから先もずっと、永遠に。

一番近くで見守らなければならない。




好きだと囁く言葉は本物でも。

その笑顔は偽物で。




だけど、いつか必ず。

あの笑顔を取り戻す日を信じているから。


いつか必ず。

武は俺にまた、笑いかけるから。





“隼人、大好きだぜ!”



その日まで、俺は。

お前と一緒に、堕ちてやるよ。




どこまでも。



END







黒武にハマりました。
そして、初のちゃんとした最中(のつもり)です;;

直接的な表現をするのがどうも苦手で、(読むんですけどね;)
こんな中途半端な感じになってしまいました。

楽しんでいただければ幸いです。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。


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