8059・その他

□マフィアなんて
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「僕とファミリーと、どっちが大切なんですか!」


不意に口走ってしまった言葉に、自分でも驚きを隠せなかった。




【マフィアなんて】




つい先日まで、この男は倒すべき相手であったはずで。
オッドアイを奪われたからと言って、素直に負けを認めて従うなんてこと。

以前の僕なら…否、今現在も本来なら。


有り得ない、ことだったのだ。



それが気がつけばこの有様。


ボンゴレに発見されないよう、ここに閉じ込められて。
四六時中この男と顔をつき合わせ。


同じ空間で食事をし。

同じ空間で睡眠を取り。



序々に縮まる距離にお互い、違和感を感じなくなって。



どこをどう間違えたのか。

この男、白蘭と僕は。
所謂恋人、という関係にまで発達してしまった。



自覚すれば、互いの間にあった枷が外れるのなんて本当にあっという間で。


甘い空気を共に過ごすなんてことは、至極当然の日常になっていた。


今はボンゴレ狩りの最中だとか、そんなものはどこ吹く風。
戦うべき相手であることなど、とうの昔に脳内からは削除されていて。

これが日本で言うバカップルというものなのだと感じる程。
僕らの距離は0に近かった。




それ、なのに。



「骸くん?」


不思議そうな顔で僕の顔を見つめる白蘭は、まるで先ほどの僕の言葉など心に響いていないようで。


「いつもいつもファミリーファミリーって…、なんなんですか…。」


段々と細くなる僕の声もお構いなしに、手にしたパソコンにスイッチを入れる。

聞こえて来るのは、彼の部下の声。


ボンゴレの誰を見つけただとか、
アジトの手がかりを掴んだだとか。


繰り返される報告の声を聴く度に、胸が、苦しくなる。


折角、ようやく、あなたという存在を手に入れたのに。



「僕だけを…見て下さいよ…。」



切実に願う、僕の望み。



そんな気持ちから出た言葉。






「…君か、ミルフィオーレか…だって?」


近頃、白蘭は部下に呼ばれて、この部屋を出て行くことが多くなった。


以前のように2人きりで過ごす時間は極端に減り。
1人きりで止まるには広すぎるこの空間に、寂しささえ覚え初めていて。


この場所から離れることの出来ない自分に嫌気が差した。


彼を、走って追いかけることが出来たのなら、どれほど幸せだろうか。
彼を、いつも近くで見守ることが出来たのなら、どれほど幸せだろうか。


決して叶うことのない幻想には、ただ想いを馳せることしか出来なくて。

そんなこと、十分に承知の上だったんだ。


だから。
本当は言葉にするつもりなんてなかったのに。



折角この部屋に帰って来た白蘭に駆け寄ろうと思えば。

彼はソファに座る僕への挨拶もせず、勿論キスのひとつすら送らず、
パソコンのあるデスクの椅子へ腰をかけてしまったから。



僕はもう、我慢の限界だったんだ。



「…僕は…、あなたの恋人じゃ…ないんですか?それとも、恋人より、ファミリーの方が大切なんですか?」




溢れ出る涙を我慢して、
精一杯の抵抗。


マフィアがどういう存在であるかなんて、とっくの昔からよく知っているはずで。

信用できないことなんて、分かりきっているはずで。

非常極まりない心の持ち主なんだと悟ったはずで。



それなのに。



信じてしまった。

彼なら僕を、選んでくれる。

今まで出会ったマフィア達とは違う。

彼は、僕のものなのだと、信じて疑わなかった。





「そういうのって、比べるものじゃないよ、骸くん。」


パソコン越しに聞こえてくるそれは、どこか呆れた表情を含んでいて。


ああ、やっぱり、彼も他のマフィアと同じ。

恋人だなんてもの、何の意味も持たないのだと思い知らされた。



「もう…、いいです…。」



小さく呟いた僕はそのままソファに座り続け。
足を抱えて下を向く。


どうして分かってくれないのかと、白蘭を攻める気持ちが湧き上がったけれど。

彼だって、マフィアのボスなのだと思えば、その気持ちもすぐにおさまった。



マフィア風情が、僕の心を知ることなんて永遠になくて。

それがいくら白蘭だからと言ってそれは同じ。




それならば、僕は僕の心を押し殺して。

あんなこと、口にしなければ良かったのだ。



そうすればずっと。

これからだって、彼の側にいられる。

心なんて分かってもらえなくても、彼は僕の側に居てくれたのだ。





どうしてあんなことを口走ってしまったのだろうと後悔する。



どっちが大切、なんて。


尋ねてはいけないことだったのだ。





「骸くん?」




抱えた膝に涙が一滴零れるのと同時に。
ふと、頭の後ろから声がして。


「なんですか…。」

そう、僕が振り向けば。


「君かミルフィオーレか、どっちが大切かなんて…比べるものじゃないけど…。」

白蘭は僕の頭にそっと手を置いて。


「僕が守りたいと思うのは、君だけだよ。」


少しの笑顔と共に、その唇が額へ触れた。


涙で汚れた僕の顔は本当にぐちゃぐちゃなはずで。

それを僕は手で拭う。


「どうして…」

「どうしてって、君は僕の恋人でしょ?」


白蘭はそんな僕の手に、自らの手を重ね。



今度は僕の唇に。

それを重ねた。



「好きだよ、骸くん。」



僕の恋人は憎むべきマフィアのボス。

信用できない相手。



だけど、彼は。
僕の心を分かってくれた。


たまらなく不安で、
たまらなく寂しかったこと。

この部屋に1人きりでいる虚しさ。


抱きしめられたその腕からは全てを見透かす力が感じられて。
全てを受け入れてくれているのだと知ることが出来た。



「マフィアなんて…嫌いです。」



だけど。

白蘭、あなただけは。




心の底から、愛しています。

小さな嫉妬心を抱くくらい。




END







ポンとの妄想を形にしました!
白骸で甘々。

いくつかポン発案の台詞があったりなかったり…(笑)
ミルフィオーレに嫉妬する骸さん。かわいいと思います←

ここまでお読み頂きありがとうございました。

2008.7.24

※加筆しました。
2008.8.3


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