8059・その他

□強さと弱さ
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マフィア?


ああ。

小僧の言う、マフィアごっこか。




なんて。

俺が本気で思ってると

思ってたか?




【強さと弱さ】





学生の本分である学業。
それが頗る苦手な俺は、今日という日を特に。
特別だと感じることはなかった。

テスト返し。

そこそこ頭の良い奴なら、その結果を心待ちにして。
仲間内で点数を競い合う日。

更に、その点数は成績へと繋がり。
高校進学への筋道となるのだから、躍起になる奴も大勢いた。

「山本!」

そんな中。
今現在一人ひとりの名前を呼んで、テストを返す数学教師に。
俺も名前を呼ばれる。

「…お前、野球も良いけど、もっと勉強しろ。」

毎度のながらの教師の台詞を受けて、

「分かってるって。」

いつものように笑顔で返事をした。

横目でちらりとテストを見れば。
なるほど、やはり勉強しなくてはならないと悟るほどの点数。

このままでは真剣に色々やばいんじゃないかと、少しばかり頭を抱えながら自らの席へ戻る。
そこへ腰掛けようとすると、どこからか聞きなれた声が聞こえた。

「お前、もっと勉強しろ。」

その声を便りにあたりを見回すと、視線の先に見慣れた顔が立っていた。

「よ!小僧!来てたのか!」

ツナのところにいる小僧。
そいつに軽快な口調と笑顔で挨拶をすると、小僧の方も“ちゃおっす”といつもの挨拶をした。

それを見つけたらしいツナが俺達の元へ走って来て。
学校へ来るな、と大声とも小声とも取れる微妙な口振りで説教をする。
その姿を見れば、兄弟、いや、ましてや親子のようにも見えるのだが。

いかんせん。
小僧はツナの家庭教師。

その形成はすぐさま逆転し、結局ツナが咎められることになった。


「山本。お前は将来ボンゴレのファミリーになる男だ。ファミリーには頭脳も必要だからな。しっかり勉強してもらわないと困る。」

一通りツナへの説教が終わったのか、小僧の視線はまたこちらを向いて。
そう俺に声を掛けた。

「リボーン!!だから、山本にボンゴレとかファミリーとか言うなって!!」

そんな小僧の後ろで、ツナが慌てる。
小僧にだけ聞こえるような小声で言っているつもりらしいが、こっちまで丸聞こえで。

「そうだな!馬鹿じゃファミリーになれねぇもんな。俺、勉強するからさ、また誘ってくれよ?マフィアごっこ。」

ツナの不安を掻き消すように、俺はまた笑顔で言葉を返した。


そしたら予想通り。
ツナは安堵の表情を見せて。

“まだマフィアごっこと思ってる…!!”

そんな顔をした。


マフィアごっこ。

それが只の“ごっこ”じゃないと気付いたのは。
もう随分と前のことだ。

あのリボーンという小僧が現れて、
試験をすると言ったあの日。

その時にはもう。

これが子どもの遊びではないと理解した。



そんな俺の様子に気付いたのか。
あの後小僧が1人で俺の前に現れて。

全てを説明して行った。

『あれだけで気付くなんて、やっぱおめぇはツナのファミリーに必要だ。』

状況把握能力を誉められたようにも思えたが。
そのときの俺の意識は別の方へ向いていて。

この小僧の話を受け入れるか否か。

そのことに頭を悩ませていた。


マフィアなんて、言葉の響きだけで危険だということが分かる。
本来なら、俺は野球のプロを目指して、野球一本で生きていく筈だ。
それがマフィア。

そんな究極の選択など、考える余地もなく“野球”である筈なのだが。

だが、だ。


そこで不意にあいつの顔が浮かんだ。

本来なら職員すらも滅多に使わないであろう応接室を、我が物顔で使用している、風紀委員長雲雀恭弥。


風紀委員長とは名ばかり。
否、きっちりと並盛の風紀を正している上では仕事をこなしているけれど。

不良の頭に違いないあいつの顔。


“僕は強いものにしか興味がないんだよ。”

口癖のように呟くあいつの言葉が脳裏を過ぎった時。

俺は、このマフィアの話を受け入れてもいいんじゃないかと思った。


マフィアは強い。

それだけは確信を持って言うことが出来る。

きっと、雲雀でも想像のつかないくらい強い奴らがたくさん居て。
そんな奴らと俺はこれから出会って。
強くなっていく。

努力を伴うことは勿論承知の上ではあるが。

それは、悪くないことだと思った。

強い男。

それが雲雀の側に、これからも居つづける条件なのだとしたら。
俺は野球を投げてでも、そのマフィアに荷担する覚悟が出来ると感じた。





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