-story-

□真夜中の同士
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「っはあ…はあ…」





一言で言うと疲れた。



長めに言うとまだ、牢屋まで距離があるのか…



私の周りに拷問道具がちらちら見えてきた。



お姉…あんたをどうやって殺そうか…楽しみだよ、くっくっく…



そんなことを考えながら牢屋の前まで、来ると乱暴に中へ押し込んだ。



衝動で魅音が目を覚ます。






「こっこれは…何の真似ですか…?」



「あら、お姉。やっとお目覚め?」





魅音が状況を理解したらしく警戒の眼差しで私を睨みつけた。





「園崎家次期頭首として命じます。ここを開けなさい!」



「あはははっ!次期頭首ならもっと傲慢な言い方をしなきゃあね!
まあ、今のあんたは滑稽なだけなんだけどさ!」





魅音の少し動揺した素振につい笑いがこみ上げてくる。



魅音もすぐには出してくれないと思ったのか、大人しくなった。





「…どうして鷹野さんと富竹さんが殺されたんだろうねえ?」





…魅音は答えない。





「お姉?聞いてる?黙ってたら、ほかの人がどうなるか…」



「…わかんない…でも2人とも死体が見つかってるよね…」





よねって…あんたと鬼婆が仕切ったんだろうが。



あえてそれは口にしないで続ける。





「そうだね。本当は鷹野さんは見つかっちゃいけないのかな?祟りってことにしたかったのかな?」



「2人が見つかったなら、おに隠しとしてもう2人消されるんじゃ…?」





魅音の予想は確かにそうだ。



だとしたら、消されるのは私と圭一…?





「なるほどね…ねえお姉、このどこかに死体を隠す場所ってあったよね?親戚が言ってた」





…またもや無言…?



私は自分の傍の車いすに手をかけた。



その車いすには、おぞましいほどの傷を負った鬼婆が座っていた。



いや、しんでるの方が適切か。





「答えないと鬼婆がどうなってもいい…ってことだよね?」



「…っ、この奥に牢屋があるでしょ?その中のはず…!」





その奥に視線を向ける。



かすかにそれらしき牢屋が見える。



ギイギイ…と私は死体の乗ってる車いすを押しだした。





「詩音!?婆っちゃを落とす気!?」



「落とすんじゃないよ、捨てるんだよ。…もう死んでるしね」



「…な…!っく…」





魅音のうめき声が聞こえる。



仕方ないよね…?



悟史くんを殺したんだもの…



死んで当然だよね…?



あと一歩というとき、ふいに公由のおじいちゃんの言葉が浮かんできた。





「失踪者は奥の井戸に捨てられるって、詩音ちゃん知らなかったのかい?」





「魅音!…もしかして悟史くん、ここにいるの…?」





亡き公由家の頭首が言ってることが本当なら…!





「たぶん、そこしか考えられない…」





今さら鬼婆なんてどうでもよかった。


鬼婆を放り出して、力の限り悟史くんを呼び続けた。



でも悟史くんは返事をしない。



…当たり前か。





「詩音。お願いだから婆っちゃだけは落とさないで…」



「はあ?死んでるのにどうするの?」



「婆っちゃは、失踪者じゃない…」





もうすでに弱弱しい声だ。



でもあんたの言うことなんか聞くわけない。



魅音の叫びも虚しく、鬼婆は井戸のそこへ落ちていった。



…ぐしゃりと嫌な音がする。





「…婆っちゃ…!!」



「次はあんたの番だよ。一番惨たらしく殺してあげるから、それまで牢屋生活楽しんでおきな…」





がたがた震える魅音を残し、私は地上への、元の世界への階段を上る。



ぎい…と開いて吹きこんでくる風は、少し冷たかった。
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