季節物
□あたたかい一日
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「あ〜っ!!ロケット団!!
何でアンタ……がこんなトコにいるのよ!!!」
アンタ「達」と言おうとして、はた、と気付き、回りをキョロキョロリ。
彼が独りぼっちなのを確認した少女は、誤魔化すように強く、言葉を続けた。
「げっ!!ジャリガール!!」
「ヒーカーリーでーすーっ!!
何よー。げっ!!って!!また何か企んでるワケ?!」
追いかける子供達がこの街に立ち寄ったのは彼も確認済みだ。
しかし、現段階で何か企んでいるわけではない。モチロン、長い目で見ればピカチュウGETを目論んでこの街にいるには違いないが。
「べっ、別に何も企んで無いぞっ?!」
「嘘!じゃあなんでロケット団がこんな所にいるの?!」
こんな所、というのは、女の子向けのちょっとした雑貨なんかを売っている店。
まぁ、確かにこんな所に男1人だ。確かにおかしくはあるが、だからって逆にこんな所で何を企めと言うんだろう。この子は。
「いや、それは、その、ホラ。もうすぐホワイトデーだし?」
きょとん。
まさしく今の彼女の表情にはそんな言葉が似合った。
「え?ホワイトデー…返すの?誰に?」
この男にチョコレートを渡しそうな立場にいる人間をヒカリは1人しか知らない。しかし脳裏に浮かぶのは、今から1ヶ月前のこと。
あの日は、自分も勢い勇んでチョコレートを作り、旅の仲間に渡した。
すると、まさかの逆チョコで仲間の1人…タケシからチョコが返ってきた。
「さすがタケシだなぁ。」なんて思っていたら、なんと彼はその後、ロケット団ともチョコレートを交換していたのだ。
貰うことが当然。といった女性の顔も、まさか貰えるとは思ってなかった。と喜ぶタケシの顔も、まだ覚えている。
あの時のこの男の悔しがり方からして、とても相方にチョコレートを貰ったようには見えなかったが…。
「誰って、ムサシだけど…。」
「え?!貰ってたの?!」
「なっ!!俺達これでも恋人同士なんだぞっ!!!」
「えええぇぇっ?!」
狭い店内に、少女の声が響き渡り、周りの視線が集まる。
「ちょ、そんな驚くこと…」
「だってだってだってだってっ!!!!」
止めようとした言葉を最後まで聞かず、多感な年頃の少女は瞳を輝かせ男に詰め寄る。
愛とか、恋とか、女というのは、そういう言葉にときめくものなのだろう。たとえこんなに幼くても。
「ね、ね。もう、その………キスとか、した???」
「え、いや、あの」
瞳を輝かせ、頬を紅潮させ、期待いっぱいにたずねてくる10歳の女の子を目の前に、大の男は周りの視線が気になって仕方ないようだ。
たじたじな彼の様子に店内の雰囲気がとても和やかになる。
「ね、ムサシのどんな所が好き?
初めてキスした時どんな気持ちだった?」
「いや、ちょっと待て何か勝手にしたことになってるし。」
「タケシが…」
ふと、少女の顔から表情が消えた。
「ムサシが、タケシにチョコレート渡した時、どんな気持ちだった?」
「ジャリ…ガール?」
「ねぇ、タケシが、ムサシのこと好きだって言ったら、どうする??」
泣き出してしまいそうな少女を連れて、男は仕方なくその店を後にした。