季節物
□今日は楽しい、
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今日は楽しい、
「はいはーい、問題です。今日は何の日でしょう?」
「耳の日。」
「金魚の日じゃニャーか?」
嫌な予感が駆け巡り、彼女の言わんとしていることをわざと外して答えた。
女の子ばかりが優遇される街で、一日中ムサシのワガママに付き合わされたのは、そう遠い記憶じゃない。
「わざとらしい間違いしてんじゃないわよ。」
びっす。
ムサシの手刀が命中した頭を押さえて二人が呻く。
その様子を見て彼女は、思い出した?なんて訊いてくる。
その晴れやかな笑顔が、正直、恨めしいが、文句を言った所で2発目の攻撃を発動させるだけなのでとりあえず黙っておいた。
「思い出したニャ。
そういえば、金魚の日は雛段に金魚飾ったのが由来だったニャ。」
「ってことは今日はひなまつりかぁー。」
本当は知っていたけれど、祝う準備なんて何一つ出来ていないというアピールの為にも、さも、今思い出したようなフリ。
白々し過ぎる気もするが、彼女には有効なようで、本当に忘れてたの?なんて、ふてくされている。
その淋しそうな表情には、少し、罪悪感を感じなくもない。
「じゃあ、今からでもお祝いするのニャ!ニャーが木の実を集めてきてやるから、2人はここで待ってるニャ!」
ぽんっ!
「ソーーーナンスッ!」
「ニャ?おミャーも行くのニャ?」
「ソーーーナンスーッ!!」
「よし、じゃあ一緒に行くのニャ!」
やる気満々で出発するポケモン達を見送った彼女は、どうやら機嫌がなおってきたようで、嬉しそうな笑顔を相棒に向ける。
しかし上機嫌な彼女の瞳に映ったのは、溜め息をつく相棒だった。
「何?その顔。
言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ。」
ムスッとした彼女の顔を見て、彼は慌てて取り繕う。
「あ、ゴメン。別にそういうんじゃないんだ。ただ…」
ふ、と、彼が俯く。
視線の先にあるのは、彼の財布。
「ゴメン。俺、あられも買ってやれないや。」
酷く気落ちした様子で言う彼に、ふ、と、彼女から笑みが零れる。
「なんだそんなこと。」
どれだけお金無いのよ。なんて笑う彼女には、不満の色なんて伺えなくて、その気持ちだけで十分だ。と、キッパリ言う彼女から、いつもの「がめつさ」はカケラも感じない。
「でもね、お願いがあるの。」
と、思ったのも束の間、彼は彼女から吐き出されるであろうトンデモナイ要求に身構えた。
「あのね、」
少し照れた様に様子を伺ってから、彼女が口を開く。
――――今日はアタシの右側にいて欲しいの―――
私だけの雛人形は、相変わらず持っていないから、ねぇ、あの年のひなまつりのように、私がお雛様になるの。
ね、今年も、御内裏様を頼める?
「へ?右側?何で??」
「なんでもいいでしょっ?!細かいコト気にしないのっ!!!」
「は…はい……。」
言いながら、彼の左側に腰を下ろす彼女の意図を理解しないまま、彼はうなずく。
「素直でよろしい。」
そんな彼の様子に彼女は満足気に微笑んだ。
「ムサシー、コジロー、凄いニャ!!この森、大量だニャっ!!」
「ソーナンスっ!!」
「凄いじゃないかニャース!!」
がしっ。
きのみを抱えて帰ってきた仲間達に言いながら、立ち上がろうとした彼の服の裾を、彼女が掴んだ。
「言った側からどういうつもり?」
彼女は恐ろしい程にっこりと笑い、そのまま何事もなかったように仲間達へと歩み寄る。
勿論、右手に彼を引き摺って。
「うわぁっ、本当、大漁じゃないっ♪」
ありがとう。君達のおかげで、
今年も楽しい、ひなまつり
2009年3月3日
よしー かなこ