季節物

□本命チョコと、今年は逆チョコ。
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本命チョコと、今年は逆チョコ。

「んー。やっぱこっちも捨て難いのよねー。」


彼女の姿は、ピンクと茶色に彩られた売り場にあった。
珍しく、1人での買い物。

それもそのはず、彼女の左右の手には、可愛らしいハート型の空き箱がひとつずつ。

これは所謂バレンタイン用品と言うヤツで、恋する乙女の為のその売り場に、男連れはモチロン、ポケモン連れでだって、そう簡単には入れない。


「ロケット団っ?!」



………まぁ、普通は。


「あら………、こんなとこで奇遇ね。ジャリボーイ大。」


聞き慣れたその声に、若干の気まずさを感じながらも、彼女は声の主に振り返った。

「ジャリガールは…一緒じゃないのね。
1人なの?」

「なんで、そこでヒカリがでてくるんだ?」

「アンタ達と面識ある人間がここでアンタに会ったら、皆、ジャリガールがアンタにチョコ作り教わると思うわよ。」

「そうなのか?」

男連れでも入り辛いが、男1人でなんてもっと入り辛い。
彼女の疑問は尤もなのだが、少年には理解出来ないようだ。
少しだけ、彼がイイヒト止まりな理由が解る気がする。


「で?
アンタはなんでこんなトコにいるワケ?」

「そっれはモチロン、愛しいお姉様方に、「今年は逆チョコ」をプレゼントするべく、」

「逆チョコ?」

「知らないのか?逆チョコって言うのは…」


途中で言葉を切られても文句も言わずに説明する少年の言葉を、しかし彼女はろくに聞きもしないで、先程バラエティグッズ売り場で見掛けた、いつものパッケージを反転させたデザインのチョコレートを、あぁ、あれか。なんて思い出す。


「と言うわけで、簡潔に纏めると、逆チョコってのは男性から女性へと贈るチョコレートだ。」


ふーん。と、さして興味もなさそうに呟いた彼女は、少年の買い物カゴの中身を一瞥すると、これまた興味もなさそうに「手作りなの?」と、訊ねる。


「あ…、あぁ。」

彼女の言葉に、彼は若干気まずそうに答えると、意を決したように口を開いた。


「なぁ、ムサシ、
女性としての意見を聞かせてくれないかっ!!」

「な…、何よ。」

凄い剣幕の少年に若干押されて、彼女が一歩あとずさった。

「バレンタインに逆チョコ、手作り。はウザいかっ?!」


………。


なんだ。そんなことか。
あまりにも青春ドストライクな少年の心配ごとに、込み上げる笑いをなんとか押さえる。


「あたしは…、貰える物は何でも嬉しいわよ?」

あまりに、「らしい」彼女の答えに、訊く人間を間違えたかと頭を抱えたくなった。
そんな少年に向かって、彼女はケロリと言葉を続ける。

「ってか、アンタの手作りチョコ貰って喜ばない人間なんていないでしょう。」


さも当然のコトを言うように言い放った彼女は、じゃあ、バレンタインは期待してるわね。なんて言い残して、手に持った箱を二つとも持ってレジへ向かった。

ぽかんと口を開けた少年を売り場に残して。


「おはよう、コジロウ。
はい。コレ、あげる。」


にこやかな顔で綺麗な包みを手渡せば、相棒が本気で嬉しそうな顔をして受け取る。


「ありがとう、ムサシ。
開けて良いか?」

「勿論。」


幸せそうな二人の空気は、しかし、コジロウがふたを開けた瞬間に固まった。
箱の中身は、チロルチョコが5つ。その周りにはマーブルチョコがばらまかれて彩りを添えている。まぁ、そんなことは100歩譲って、どうでも良い。
チロルチョコの上にデコペンで白々しく書かれた「本」「命」「チ」「ョ」「コ」の文字も、この際スルーする方向で。


「ムサシ、昨日、チョコレート作ってなかったっけ?」

「作ったわよ。でもコジロウの分なくなっちゃった。」

「ムサシの生チョコ美味かったニャ。」

「ソーナンスっ!!」

「でも、たったあれっぽっちしか作らなかったのニャ?」

「まさか。」


チラリとテーブルに目をやる彼女。その視線の先には、コジロウへのプレゼントよりも少しばかり地味目な箱にカードが添えられて置いてあった。


「何ニャ?アレ。」

「何って…、義理チョコよ。」

「誰にっ?!」

「男の子があげるばっかで何も貰えなかったら、流石に可哀相だもんね。」


縋るようなコジロウの問い掛けに、答えることもなく、ムサシはやんわりと微笑んだ。


このあと、ピカチュウGETの作戦中にムサシとチョコレート交換をすることになるタケシにコジロウのヤキモチ攻撃が炸裂したのは言うまでもない。


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