季節物
□策略について
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「なんでみんなこんな、チョコレート屋の策略にのせられるかな。」
バイト先からチョコレートをしこたま抱えて帰ってきた相棒が、疲れた様子でそんな事を言うものだから、ムサシは思わず顔をしかめた。
「アンタこないだ海苔問屋の策略にのって一緒に恵方巻き食べてたじゃない。」
「俺はカントー民だから海苔問屋じゃなくてデパートやスーパーやコンビニの策略に乗ったの。」
コジロウはイライラする気持ちを抱えながら、しかしそのイライラの原因も、自分が意味のわからない事を言っているという事実も、冷静に理解していた。
わがまま、やつあたり。
いくら紙袋いっぱいのチョコレートが貰えたって、この中に本当に欲しいチョコレートは入っていなくて、期待なんて出来ないくらいに、毎年、そのチョコレートは手に入らない。
義理でも良い。自身にとっての本命から与えられるチョコレートを、彼は毎年望んでいるのに、その相手は自分が不特定多数からのチョコレートを山ほど持っていても気にもとめない。
ムサシは当然、コジロウのそんな気持ちが理解できるはずも無く、声を荒げた。
「どっちでも良いわよそんな事。恵方巻きとチョコレートの何が違うのよ!!」
怒鳴ったと思ったら肩でぜぇぜぇ息をするムサシ。
コジロウはいぶかしげに眉を潜める。
「ムサシ、今日やけに突っかかってこない?」
「突っかかってないっ!!」
ぐしゃっ!
怒鳴り声に掻き消えきらなかった紙の音。
コジロウが不思議そうにムサシを見つめ、ムサシはそんなコジロウから視線を逸らして顔をしかめた。
「…知らなかったのよ。アンタがそんなバレンタイン嫌いなんて。」
諦めたような顔でため息ひとつ。ムサシが取り出したのは包みがぐしゃぐしゃにこそなっていたものの…
「チョコ…レート?」
「仕方ないじゃない、だって、だって、みんなで恵方巻き食べれて嬉しかったのよ!!
何も喋れなくても、なんか、面白くて、楽しくて、いっぱい喋って食べたらもっと美味しいかもって、だから、バレンタインだからチョコレートを
…仕方ないでしょう?!ニャースが化け猫ポケモンだからチョコ食べれないなんて、忘れちゃうのよ!!だからせめてコジロウとって…アンタバレンタイン嫌いなんて言ったこと無かったじゃない!!!」
彼が毎年、欲しくて欲しくてたまらなかったチョコレート。
それが今、彼の目の前にある。
「ムサシ、俺、バレンタインが嫌いなんじゃ無いんだ。」
「は?何よ今更…」
「もしもこのチョコ、ムサシが俺と2人だけで食べてくれるなら、チョコレート屋の策略に喜んでのっても良い。」
「…………。」
あと、一押し。
「来月は、一緒にひなあられ食べよう。桜が咲いたらみんなでおだんご食べよう。その次は柏餅かな?夏になったらうなぎと、あ、お盆のぼた餅、それから、」
「ぼた餅はあんこはダメよ。きな粉にしましょう。」
彼女の口から出て来た声は必死で、思わず笑みがこぼれる。
あぁ。ニャースに食べれないって言われたの、ショックだったんだなぁ。
「ニャースがポケモンだって忘れちゃうのに、ニャースがあんこ嫌いだってのは忘れないんだな。」
「何よ悪い?!」
「ううん。」
むしろそんな所が好きだと思う。
「この先ずっと、全部、みんなで一緒に、食べような。」
この先の、全てを、君と過ごせますように。
「約束よ。絶対。」
差し出された小指を自らのそれと絡ませた。
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遅れた!仕方ないよね書き始めたの14日の17時過ぎだし。帰ったら普通にテレビ見ちゃったし。
アホかわ路線を狙ってみたよ。
海苔問屋の策略って話がしたかったの。
だって、デパートスーパーコンビニのヤツらがよー。恵方ロールケーキとか出し始めたんだよー。イオンのドラえもんロールケーキ普通に美味しかったしな。食べたよ。仕方ないじゃんロールケーキだよ?ドラえもんだよ?食べるでしょ普通に。
しかし海苔問屋の頑張りをかっさらっていく小売店は非道だと思う。海苔問屋って音の響きが好きだ!
これはそんな話(・ω・)