季節物

□あたし、あなた、あいたい
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「ねぇコジロウ?」

「何?」

自分のポケモンから目を離さずに、名前を呼ぶ相棒に少し呆れながら返事を返す。
そんな彼もさっきから自分のポケモンにポケモンフーズを手渡しては幸せそうな顔を見せていた。

「知ってる?今日って七夕らしいわよ。」

「へー。」

今年は、ちょっと縁はなさそうな行事を話題に出されて、彼はポケモンをボールにしまい、初めて相棒の方を向いた。


星に願いを託せるほどいつまでも子供じゃない、けれど、

「どうした?今年も賑やかにやりたい?」

自分も祭り参加したい気持ち半分で訊ねたけれど、彼女は首を横に振った。

「違うの。…織り姫と彦星の話。
知ってるでしょ?」

どこか虚ろな瞳で、彼女はそれでも先程から自分のポケモンにブラシを入れる手を休めない。

「そりゃ…まあ。」


「小さい頃ね、うん。丁度ジャリボーイくらいの頃かな。」

彼女の手がピタリと止まり、ポケモンは不思議そうに彼女を見上げる。

「織り姫と彦星って可哀相だと思ってたの。
1年にたった1度、1晩しか大切な人に会えないなんて、
なんて悲しいのかしら。
…なんて、苦しいのかしら。」

「コロ?」

ふわり抱きしめられたポケモンは、嬉しそうに彼女にすり寄る。

「1年なんて、大した時間でもないのにね。」

「…。1年って長いだろう?」

「長いわ。でも大した時間じゃない。
確かに1年離れてたら恋人関係を破綻させる自信はあるけど、大切な人に必ず年1回会える約束も保証もあるなら、それはとても幸せでこそあれ、悲しくも苦しくも無いのよね。」

相棒が途中、さらりと七夕を全否定したような気はしたが、彼はあえてツッコミは入れなかった。

「う〜ん…そう、かな?
俺は、愛する人と片時も離れたくないし、悲恋だと思うけどなぁ。」

「…私だって…でも、それが叶わないならせめて確実に年1回くらい会いたいわよ。」


………。
彼は憮然とした表情で彼女に抱き締められたポケモンを押しのけ、そのまま彼女に口付ける。
後ろでコロコロモリモリ抗議の声が聞こえるがそんなことは気にせず舌を絡めた。
荒々しくポケモンを押しのけて肩を掴んだクセに、優しくて溶けちゃいそうなキスに彼女はうっとり目を閉じる。

「で?それ、誰の話?」

彼女はやや気まずそうに視線を逸らした。
あ、そうそう。言い忘れていたがこの2人、実は恋人関係にある。

「えっと…もしかして妬いてる?」

「当たり前だと思うけど?」

彼が感情を剥き出しにしているのを久しぶりに目にした気がする。
それでも、頬に触れる大きな手は優しくて、真剣に見つめるその瞳に彼女は笑みを零した。

「人が真剣に話してるのに…」

「ソーナンス達の事よ。」

………。

彼女の瞳の端に、少し離れた床に座ってしょぼくれるポケモンの姿が見えた。
ふ、と彼女の口から息が漏れる。

「おいで。コロモリ。」

次の瞬間にはコロコロと嬉しそうな声は彼の耳元で聞こえた。


「………穴があったら入りたい。何コレ俺の空回りなの?」

ようやく、彼女の言葉の意味を理解して、彼は頭を抱え、

「いや、でもムサシの言い方の問題だ。誤解させて妬かせようとしただろ!」

「言ったじゃない。1年離れてたら恋愛なんて勝手に終わるわよ。」

平然と言い放った彼女に彼は少し不安を覚えた。

「…俺とも…?」

彼の八の字になった眉なんて気にもとめずに彼女は笑う。

「私と片時も離れたくない。
…って、思っててくれてるのよね?」

「コロリーッ!!」

元気の良い返事に先を越されて、彼はもう一度ポケモンを押しのけた。
例え大事な言葉をポケモンに先越されたとしても、

「離さないから。絶対。」

「うん。なら大丈夫よ。」


今年は「お星様にお願い」なんて、ちょっとできないけど、一緒ならきっと、どんな願いだって叶えて行けるはず。



2010/7/10 七夕過ぎたー}(・д・)byよしー

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