季節物

□例えばこんなクリスマス
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「寒。」

ふと窓から外を見れば、かなりの勢いで雪が降り始めていた。


「あー。寒いはずだわ。」


ぽつり、ぽつり、呟く度に静まり返る部屋は、認めたくは無いけれど淋しいような気がした。


―――例えばこんなクリスマス



ホドモエシティ。
ここでのミッションはある人物との接触。
指定されている時刻は明日、12月25日の夜8時。
それまでは待機と言う名が付いているものの実質自由時間。連絡さえ取れて、何かあればすぐ動けるなら何をしてても良いワケで、
だからって、誰も今までのようにピカチュウを追いかけようとはしない。

当たり前だ。
この現状であの子に、
否、あの子達にちょっかいかけれる訳が無かった。

コジロウとニャースは昼前から二人してお出かけ。
留守番を買って出たムサシは1人何をするでもなく自室に籠っていた。
何をするでもなく…例えばたったひとつだけポケモンの入ったモンスターボールを眺めてみたりとか、
ベッドに寝転がって枕を抱き締めてみたりだとか、
今みたいに、冷たい窓ガラスにもたれて雪を眺めてみたりだとか。
そんな感じ。


「嫌な感じ。」


ガラスに映った唇が確かにそう動くのを見た。

「嫌な感じ」か。
口元が緩むのは、どちらかと言えば自嘲の類。


「今夜はクリスマスイブなのにね。」


窓にもたれたままもう一度モンスターボールを見つめる。
この中のポケモンには、どんな世界が見えているんだろう。

別に、

サミシイ

とか、

思ってるんじゃないけど、



「アンタは出てきたくない?」


ぽつり、呟いては訪れる静寂。


解ってはいたけれど、


「クリスマス…ね。」


こんなクリスマス、記憶の中にいくつもある。
別になんてことはないわ。


ない、けど、





「も…、」


うずくまって目を閉じる。


両手で固く握ったモンスターボールが震えた気がして、目を閉じていても解る光を感じた。


「え、うわっ!!」


思い切りぶつかってきたのは彼女の唯一中身の入ったモンスターボールの「中身」ことコロモリ。


「え?」


顔をあげたら胸の辺りにすり寄って来たコロモリを顔の前に持ち上げて向き合う。


「今私、モンスターボールのボタン、押した?」


元気に一鳴きしたコロモリの表情を、実はまだ、彼女は読む事が出来ない。
だって目のないポケモンなんて手持ちにしたこと無いし。


「って、ちょ…?!
………あったかい、ね。」


するりと彼女の手を抜け出し、頬にすり寄るコロモリに、うっとりと目を閉じる。


「…って、
そりゃそうか。羽毛だもんね。」


嬉しそうに鳴いたコロモリが笑ったように見えたのは気のせいだろうか。



部屋が急に温かくなった気がした。



――――――



コンコン。

小さく扉を叩く音が聞こえて、目が覚める。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
気が付けば、辺りは真っ暗。

「!!!
嘘…、今何時っ?!」


どすん。


「っ?!ムサシ?!
入るぞっ。」


「あ、コジロウ。」


寝ぼけて慌ててベッドから落ちたらしい。
廊下から漏れる光に照らされて、あられもない姿で照れたように笑うチームメイトの姿に、コジロウは眉間を押さえる。


「ニャ、ムサシ、
……何やってるのニャ?」


「あはははは。
それより何か用?」


起き上がりながら乾いた笑いを浮かべるムサシに、ニャースの瞳が輝く。


「そうニャ。クリスマスパーティーの準備が出来たのニャ!!」

「くりすます、ぱーてぃー…って、え?!」


ベッドの上の塊がもぞもぞ動いて中から出てきたコロモリが一鳴き。

「ニャ?
もちろん、おミャーも一緒だニャ!!」

嬉しそうに笑うポケモン達にこちらまで笑顔が零れる。

「何?アンタ達だけで準備したの?
たまには気が利くじゃない。」

「たまにはって何ニャ!!」






淋し過ぎてどうにかなりそうなクリスマス。
記憶の中にいくつも抱えてる。

クリスマスなんか、
クリスマスなんて、

何もトクベツじゃないもの。

自分に言い聞かせてきた言葉は、勿論ウソじゃない。

けれど、何か、そう例えばタイクツな毎日を吹き飛ばすキッカケにするなら、こんな事もありなのかもしれない。




そう思ったクリスマス。
2010.12.24
よしー



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