季節物

□サンタクロースの生まれた日
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降り積もる雪、雪、雪……、


シン、と静まりかえった世界で、耳を澄ましても鈴の音なんか聞こえて来なくて、


昼間、友達の口から聞いた
「サンタクロースなんていない」
って言葉が耳の奥で木霊した。



子供の頃のちょっとだけ悲しい思い出。





―――サンタクロースが生まれた日。





「なぁ、ムサシ…、サンタっていつまで信じてた?」

クリスマスも差し迫った日曜日。
通り掛かった小さな町で、幸せそうな家族を見つめて、遠い目をしたコジロウが呟いた。

「見てコジロウ、あの店!!
70%OFFなんて夢みたいよねっ!!」

「って、ムサシ?!俺の話聞いてたっ?!」


店内がクリスマスセールの文字で飾り立てられた店へ一目散に駆け出した相棒に、思わず不満の声を漏らすと、予想外に彼女が足を止めて振り返った。


「コジロウ、アタシ、サンタさん信じてるわ。」

「へ?」

右手を差し出し真直ぐこちらを見つめた彼女が口を動かす。

「財布を〜ひ〜ら〜い〜て〜♪」

「何だよソレ!!
ってか、何の歌っ?!」

「いや良く考えたらアタシ、今、文無しだったから。
お願い。サンタさん。」


語尾にハートマークでも付きそうな猫なで声に、極上の笑顔。

―悪い女に引っ掛かるって、ある意味こういうことだよな…。

簡単にぐらつく自分の意志が恨めしい。


「ムサシ…俺の話…」


「聞いてたわよ?
サンタさんでしょ?いつまでって何?
アンタも一緒にサンタさん会ったじゃない。」


「それは…そうだけど……子供の頃サンタの存在疑ったこととか…ないの?」


「アタシの大事な人形盗った相手が存在しないワケないでしょ。」


冷たい視線を送られて、背筋が凍る。
ずい、と詰め寄る整った顔は、とても怒っていて、これ以上ない程身の危険を感じる。


「アタシ、大事な物盗んでく本物のサンタクロースより、素敵なプレゼントくれる偽物のサンタさんの方が好きなの。
ってゆーか、
本物のサンタさん嫌いなのよねっ。」


先程の猫なで声はどこへやら。
ドスのきいた良く通る声が響いて、通行人がチラチラとこちらを見ていく。

子供の頃の思い出には、サンタクロースに纏わる、少しだけ悲しかったり、淋しかったり、そんな思い出が、誰にでもあると、彼はそう思っていた。
彼女の思い出はどんなだろう?
理由はどうあれ、サンタクロースに大切な人形を持って行かれた。

以後、十数年間サンタクロースを恨み続けたその理由は、本当に怒りの感情故?


はぁ。
わざとらしくため息をついた相棒の表情が、少し緩む。


「悪かったわよ。
アンタにこんなこと言っても仕方ないわよね。」


その少しだけ淋しそうな顔に、不謹慎にも、ああ、やっぱりタチの悪い女に引っ掛かったと思った。


「ま、そんなワケでアタシは今年のサンタさんになってくれるイイオトコ探して来るわ☆」

「って、絶対ダメ!!
それって援交じゃん!!!」


「失礼ねー。せめてパトロンって言ってよね。
あくまで目的は新しい恋人で、プレゼントはオマケよオマケ。
お互い愛し合ってたらそういう言い方しないの。相手が愛しい恋人の為に経済的に助けてくれるだけでしょ。」


しれっと言い放つ彼女は………悪い女ってか、最早悪女だろ………ιιι


「だあぁぁぁっ!!!もぅっ、駄目ったら駄目なのっ!
プレゼントなら俺が買うからっ!!」

「へっ?!え…?………いいの?」

「ってか、出来ればこの先もずっと、俺がムサシのサンタクロースになりたいんだけど。」


「……………え?………それって………、嘘……。」



ふわり、雪が舞い落ちて、火を吹いたように赤く染まった彼女の頬に止まった。






降り積もる雪、雪、雪……、


シン、と静まりかえった世界で、耳を澄ましても鈴の音なんか聞こえて来なくて、昼間、友達の口から聞いた
「サンタクロースなんていない」
って言葉が耳の奥で木霊した。


そんな、子供の頃の、ちょっとだけ悲しい思い出が、大人になってやっと解った。


サンタクロースは、確かにいるんだ。



「サンタは本当はパパなんでしょう?」

道行く少女が、無邪気に父親へと笑顔を向ける。

「パパは普段会社でお仕事してるけどね、本当の仕事はサンタクロースなんだよ。」

父親は、娘より何倍も幸せそうにそう言った。


彼はきっと、本物のサンタクロースだ。

僕はいつか、彼に負けない、世界で一番幸せなサンタクロースになるんだ。

君と一緒に。

2009.12.24


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