季節物

□ミスターパンプキン
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部屋の隅で背中をまるめている男がひとり。



「何やってんの?アンタ。」


当然のように、男の相棒が声をかければ、満面の笑顔が振り向いた。


「あ、おはよう。ムサシ。」



「おはようコジロウ。
ところでコジロウ、な・に・し・て・る・の。」


真顔でコジロウに詰め寄ったムサシは、コジロウの抱えている物体に気付いた。


「………かぼちゃ??」


「うん。今日ハロウィンだろ?
ギリギリになっちゃったけど、ジャック・オ・ランタンくらい彫ろうかなと思って。」


「へー。」




会話が、途切れる。


コジロウがかぼちゃを彫る音だけが、響く。


それは決して不快な沈黙ではない。

この空間、この時間は、自分のものだ。

そんな自惚れにも似た確信を、お互いが持っていた。



「なぁ、ムサシ。」


「んー?」


「今夜皆でさ、ハロウィンパーティー、やらないか?」


ムサシが、笑顔を零す。

穏やかな、穏やかな空気が流れた。


「冗談でしょ?」


ばっさりと切って捨てる意味を持ったその言葉は、空気を壊すことはなくて、


「ハロウィンのパーティーなんてジェシーとジェームズに任しとけば良いのよ。」


「誰だよ。ジェシーとジェームズって。」



「アタシ達は、ムサシとコジロウだもの。」


ね?

と、悪戯っぽく笑ったムサシが、踵を返す。



「今夜は、ピカチュウゲットに行きましょう。
アンタそれ、頭に被れるように仕上げなさい。」



「へ?」



「他の衣装はアタシが用意するわ。
アンタは今夜、かぼちゃ大王ね。」


「かぼちゃ大王?」



キョトン、と単語を繰り返せば、それ以上にキョトンとした相棒の顔を見ることになった。


「知らないの?
ハロウィンの夜にかぼちゃ畑から飛び出して、子供に幸せを配ってまわるサンタクロースみたいなオバケよ。」



しばしコジロウが記憶を辿れば、かぼちゃ畑から現れて子供にプレゼントを配り歩くそれらしいキャラクターに辿り着く。



………幸せ、か。


「あぁ。思い出した。
世界で一番立派なかぼちゃ畑から出てくるヤツか。」


「そう、それっ!!」


嬉しそうに笑う相棒を見て、とても幸せな気持ちになる。


この幸せを、子供達に分け与えるのも悪くない。



「じゃ、衣装は任せてね☆」



「うん。ヨロシク♪」



立ち去る相棒を笑顔で見送って、コジロウは再び背中をまるめる。


彼女の信じた幸せは、世界的に有名な漫画の幼い登場人物が信じる、架空のキャラクター。



「お手軽、だよな。」



いつか望んだ自由は、きっと今、彼の手の中。








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