季節物

□母の日
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母の日フリー小説。


「ママ、いつもありがとう。っと。
出来た〜!!ヒカリは?」


書き上がったばかりのメッセージカードを満足気に見つめて、少年はまだ真剣に紙と向き合う旅の仲間に声をかけた。

「ん。あとちょっと…」

色とりどりのペンを使って、可愛らしいメッセージカードを仕上げていく少女に、少年は内心「負けた」と思った。


母の日


「何やってんの?ジャリボーイのヤツら。」

「あぁ。もうすぐ母の日だからじゃないか?
メッセージカード書いてるんだよ。きっと。」


今日も今日とてピカチュウを追いかけ、窓の外からポケモンセンターの中の様子を窺えば、いつもよりほんの少しだけ真剣で、おとなしくて、でも楽しそうな子供達の姿。
疑問を口に出せば、すぐに返ってくる答えになんだか懐かしいような感覚とくすぐったい気持ち。それはきっと、返ってきた答えから連想された幼い日の記憶。

「そっか。もうすぐ母の日なのね。」

私も何か贈ろうかしら。なんて微笑む彼女に、思わず笑みを返す。

「そう言えばムサシのお母さんってどんな人?
あんまり話、聞いたことないケド。」

「え?知らないわよ?」

思わず口から出てきた言葉に返ってきたのは理解に苦しむ言葉。
理解に苦しむ…というか、正直、彼には理解できなかった。

「知らないって…お母さんに何か贈るんじゃ…。」

「あぁ。ゴメンゴメン。違うの。母親じゃなくて伯母さんにね。贈ろうと思って。
この前、荷物整理してたら連絡先が出てきたのよ。」

電話も繋がったんだから、多分住所も合ってんでしょ。と、続けた言葉は本当になんでもないことのように紡がれたのに、訊けば十数年ぶりに連絡を取ったのだと言う。
連絡も十数年ぶりだという関係、それなのに、母親でもないその人に母の日に贈り物をしたいと言う彼女。理解は…やっぱり出来ないけれど、少し、羨ましいような気はする。

「伯母さんは、どんな人?」

「このアタシを育ててくれた人よ。素敵な人に決まってるじゃない。」

「そっか。そうだな。」

自信満々に笑って、何故そんなことを訊くのだと言わんばかりの彼女に、今度は間違なく羨ましさを覚えた。
こんなにも想って、想われて、もしかしたら自分と、自分の母親よりも、彼女と、彼女の伯母の方が良い関係なんじゃないだろうかとさえ思う。
思って、家出息子が言えるコトじゃないかと笑いが零れた。

「ね、今日はさ、ピカチュウGETは置いといて、何か探しに行きましょうよ。」

「え?!」

「どーせ今日はニャースもサボりなんだしさ。コジロウも何か贈ってあげれば良いじゃない。お母さんに。」

「いや、俺は、そういうの贈って、所在が割れると厄介だし…」

言葉の途中でチラリとポケモンセンター内の様子に目をやれば、年長者の茶髪の少年が、多分、皆が実家に送るんだろう。花の入ったバスケットを3つ手にして入ってきたところ。
嬉しそうな母親の顔を想像してはしゃぐ子供達の邪魔をするのは、確かに少々忍びない。

「…でも、付き合うよ。行こうか。買い物。」

言って笑顔で手を差し出す。

「やった♪さっすがコジロウ、話わかるじゃない♪」

彼女が嬉しそうに手を取れば、暫く悪人である事実は忘れて、ただの、人の子になろう。


彼女には内緒だけれど、今日ニャースがいないのは、ポケモン達が母の日に彼女に何か贈りたいと言ったからだ。
上手く誤魔化して欲しいと言われて、軽く引き受けたけれど、たかが母の日ひとつで彼女やポケモン達にこんなにいろんなことを教わるとは思ってもみなかった。

いくつになっても、自分を産んで育ててくれた人は大切な人だってコト。
人と人が関わるって事は、時間も、キョリも、血の繋がりさえ関係ない繋がりがそこにあるっていうコト。
あと、キッカケがあるならば、想いなんていくらでも伝えてしまえばいいってコト。どうせ伝えても、伝えてても、尽きることなどないのだから。
言葉にしたら壊れてしまいそうだけれど、確かに、そんな感じのコトを教わった気がする。


でもやっぱり、家に連れ戻されて大切な中間達と引き離されたら困るから、贈り物を送るのは無理だけれど、


次の日曜日には一日中、今は遠いカントー地方で暮らすあの人を想っていよう。やってることは無茶苦茶だけど、俺のこと大事に想ってくれてる大切なあの人のことを。

2009.05.10 よしー




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