ラグナロク(改修版)

□第1章
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―2015年 夏―

一度は断念されていた都市開発が再燃した東京。そこは近未来的な外観のビル群が立ち並んでいた。
さらに、車道をすべて地下にとう開発思考が功を征し、都市が抱えていた多数の問題が解決された。
そんな近未来の街の中に、一人の少女が歩いていた。

「……」

無言で歩き続ける少女。
神社の巫女服のような衣服はボロボロで靴もはかず裸足であり、さらに今にも倒れそうなほどフラフラだった。
だが、街中の人間はすべて少女を見ない…否、見えていなかった。

「……ク、ロ…く…」

ふと立ち止まり、少女はそう小さくつぶやくと天を仰いだ。


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セミが煩い位鳴く、とある公園に二人の人影があった。
一人は夏だというのに漆黒のロングコートと、顔の上半分を覆うバイザーで包まれた異様な男は、木の陰に身を潜めるように立っている。
もう一人は、Yシャツ姿のサラーリーマン風の男で、ベンチに座り新聞を読んでいた。

「…で?こんなところに呼び出して何の用だ?」

隠れている男が、低く重い声で独り言のようにつぶやく

「君は、こんな暑い日でもその格好なんだね」

新聞を読んでいた男が、それに答えるように軽い口調で話す。

「…」
「…はいはい、私が悪かった」

隠れた男の放つ無言の威圧に、ベンチの男は新聞を持ちながら器用に両手を挙げて降参のポーズをとる。

「用件を早く話せ」
「…今日、東京で"白巫女"らしき人物が目撃された」
「…何?」

その報告に、隠れた男はバイザーで隠れている瞳を動揺で大きく見開く。

「さらに情報によれば、彼女はあの当時のままの姿だそうだ」
「……」
「……」

無言になる両者…だがそれも数秒だけで、直ぐにベンチの男が

「クロ。これはどういうことだと思う?」

隠れた男…クロと呼ばれた男は、

「判る訳無いだろう。こういうことはお前の分野のはずだ」

そっけなく、言い返す。

「まぁそうなんだけど、あまりにも情報が少なくてさ…困ってるんだよね」
「…何が言いたい?」

思わせぶりな話し方をする男にクロは、大体予想がつくが確認のため聞く

「元々君はここ大阪支部の所属じゃないし、里帰りだと思って東京に行ってもらいたい」
「…”白巫女”を探してこいと?」
「そういうこと…だけど、発見後は監視を行って欲しいんだ」
「……監視?」
「そっ、監視」
「……分かった」
「そういってくれると思ったよ。で、早速で悪いんだけど、直ぐに出発をしてくれ」

男は手を軽く捻ると、手にはいつの間にか新幹線のチケットが握られていた。

「……」

クロは、それを男の手から受け取ると溶けるように影の中に姿を消した。
一人、残った男は

「さて、あいつらはどう動くかな」

そう呟きながら、呼んでいた新聞を近くのゴミ箱に投げ捨てた。
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