ラグナロク(改修版)
□序章
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―2010年11月―
灰色の雲に覆われ白い雪が海岸に降り注ぐ中、静かに佇む少女が一人、海を眺めていた…
彼女の周りには生き物の気配がなかった。
さらに直ぐ近くを走る大きめな道路にも人っ子一人もいない異様な光景が少女を包み込む。
だが、そんな光景が海風になびく長く、キレイな黒髪の彼女の存在を引き立てていた。
そして、そんな少女の背後で小さな金属音が一つ。
「…待ってたよ。クロ」
その音に少女は特に驚きもせず、透き通るような綺麗な声でそう答えると、少女はゆっくりと振り向き、微笑んだ。
視線の先には鈍い光を放つ少し形状の変わった拳銃の銃口を少女に向けた少年が静かに、立っていた。
しかし、十代半ばぐらいに見える少年はボロボロになった漆黒のロングコートを身に纏い、さらに顔には服と同じ漆黒のバイザーで隠しており、彼女とは違う意味で異様だった。
「……」
クロと呼ばれた少年は、拳銃を少女に向けて構えてはいるものの身体からは迷いの空気が感じ取れる。
それを感じながらも、
「……私を殺しに来てくれたんでしょ?」
笑顔で話す少女に、クロは何かに耐えるように唇を噛む。
少女はそんなクロを見て、苦笑いとも申し訳ない顔ともとれる顔で
「…そんなに自分を責めないで、クロが悪いわけじゃないよ」
「……怖く…ないの?」
クロは自然と銃を両手で握り締めて、小さく呟く。
「…怖くない…って言ったら嘘になるかな…でも、クロに殺されるなら…うん、怖くない」
「何で!!」
これから殺されるのに何の陰りもなしに笑う少女に、クロは堪らず声を張り上げる。
「何で僕なんだ!?」
「クロが"光"を受け取ってくれたから」
「っ!!」
少女の凛とした言葉と表情にクロは怯み、銃口が微かに震えだす。
「…ごめんね。でも、大丈夫…きっとまた会える…」
俯きながら少女はそうつぶやくと、クロの下へ歩き出す。
その行動にクロは思わず一歩、あとずさる。
「だから…」
クロの行動を特に気にせず、さらに歩を進める少女
「私を…」
そして、クロの持つ拳銃の目の前に立つと顔を上げる…笑顔で…しかし、失敗したのだろう。
目から一粒の雫を零しながら、
「殺して」
優しく、できるだけ優しく、クロに言った。
「うわああああぁぁぁぁあああああぁぁっ!!」
その日、雪の上に悲鳴に近い声と共に、一つの銃声が鳴った…