蒼い蛍(小説集)
□ガラスの終焉
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存在するはずのない風が吹いていた。
青鹿(あおか)硝子(しょうこ)は
西校舎の古い階段を駆け足で上って行く。徐々に強くなる風の音。窓が開いているはずはない。
明らかにおかしい。
西校舎三階の南の窓は、見事なほどに割られていた。足下に、ガラスの破片が散らばっていた。欠片は朝日を浴びて、わずかに煌く。
硝子は慌てて携帯電話を取り出すと、職員室に掛けた。
「はい、砂橋市立木岡中学校でございます」
事務の三ヶ野(みかの)雪美(ゆきみ)の声ではなかった。切れがなく、角の取れた老人の声。
「青鹿です。西校舎三階の南側の窓が破壊されています」
「そこにいてください」
一方的に電話は切れた。もう少し間近で途切れた現場を見たくて、三年五組の前までガラスを踏まぬよう、慎重に歩いた。