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□狂乱少女
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腹部に痛みを感じた。目の前には親友の顔がある。そっと上目遣いで、あたしを見つめる。
「......紗希?」
痛みより、驚きの方が脳を支配した。そっと沙希の手を握る。生温かい何かが、彼女の手を染めている。あたしの手も、それで濡れる。あぁ、そうだよね。あたしの血。
沙希が突きつけたカッターが、あたしのお腹に刺さったんだ。
「愛美が悪いんだよ」
沙希は真剣な眼差しで言った。
「どうして?」
あたしが質問すると、沙希はいつもの笑顔を向けた。
「彼氏、できたんだってね」
突き刺さったカッターナイフと、彼女の笑顔は全く違う温度のようで、同じ冷たさをしている。
「知ってるよ?愛美のことだもん。私に何も教えてくれなくても、私は知ってるんだよ?
....愛してたんだから」
友人からの突然の告白は、あたしの頭を真っ白にした。
「こんなに愛してるのに、振り向いてくれないなんて、悲しいんだよ?だから、私のこと、想い続けてもらうの」
刺さったカッターを、引き抜いた。真っ赤な血は、まるで愛の証のようだった。そんなわけはないのに、赤は愛の色だと、あたしは思った。
「私は愛美を愛しています」
沙希の握ったカッターが、再びあたしの元へやってきた。痛みや驚きや悲しみが一気にこみ上げて、全て蒸発した。
気がついたとき、あたしはベッドの上で寝ていた。真っ白い部屋の真っ白いベッド。体を起こし、そっとお腹に手をやる。痛い。夢ではないらしい。
あたりを見ても誰もいない。
「.....沙希?」
それから、あたしは沙希に会うことはなかった。連絡もとれない。誰かに聞いても、沙希の行方を知るものはいない。
愛されることは、痛いことだと誰かが言った。それは嘘じゃないんだね。
そしてあたしは、沙希のことを忘れることはない。
あなたは今、生きていますか?
狂乱少女