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□愛ゆえに
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君を一目見たときから、ずっと好きだった。
屋敷の近くの花畑で、花を摘む姿が愛らしく、美しい。
1度でいいから、君と話をしたかった。だけど、君と話をしたら僕は...。
君と話すことなど叶わぬ夢だった。
だがある日。
真っ暗闇の夜の森で、君と僕は、偶然鉢合わせた。僕の胸はザワザワと騒ぎだす。
暗い中、君だと分かった僕。暗い中、僕の姿がはっきりと見えていない君。
「夜の森は暗いですね」
そう微笑んだ君は、あまりにも美し過ぎた。
僕は無我夢中で君を抱きしめた――――・・・
目の前座る君に、グラスを掲げた。
「乾杯」
1人で呟く僕は、赤い液体を口に運ぶ。君が愛しくて、愛しくて。真っ赤に染まる君の唇にそっと、口づけをした。
真っ赤なドレスも美しい。
悲しくなるほど美しい。
僕は...君のこの赤い血を、静かにすする。
君と最後の夜を過ごす。
これは恋だったのか、
本能だったのか。
吸血鬼の僕にはわからない。
愛ゆえに僕は君の血をすする...
吸血鬼の悲しい夜