Novel

□June Bride
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 いい曲だな、と彼女が言った。

「何が…?」

 予習している手を休めることなく、ぼんやりと一護は聞き返す。ベッドの方から「だからこの曲がだ」、という返事があった。どうやら今この部屋にかけている曲のことを言っているらしい。

「あー、これか?」

 水色がこのバンド好きでさ、貸されたんだよ。俺はそこまでじゃねぇけど…。そんなことを言いながら、彼女のためにデッキのリピートボタンを押してやる。ちょうど曲はクライマックスに入っていた。

――君を忘れたこの世界を 愛せた時は会いにゆくよ――


「…これって、結構不思議な歌詞だよな……」

 この曲では全編を通して「君」と離れてしまった「僕」の独白が書かれている。けれど「僕」にとって「君」がどんな存在であったのかや、どうして「僕」が「君」と離れることになってしまったのかは、歌詞のどこにも書かれていない。


「こいつら、何があったんだろうな」

 言いながら一護はベッドに座るルキアの隣に腰かける。それを気にせず、と言うよりどこか他の場所を見ているような虚ろな目でルキアに言った。

「相手が、どこか別の世界に帰ってしまったとか」
「…ヤなこと言うなよ」

 縁起でもねぇ、と一護が隣からルキアの腰に腕を回して抱き寄せる。小柄で軽い彼女の体はいとも簡単に膝に乗った。そしてまたぎゅ、と抱きしめてくる。

「一護……?」
「うるせぇ、黙って抱かれてろ」

 随分な物言いだなとルキアは思ったが、それきり一護自身が黙ってなんとなく何も言えなくなった。



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