Novel

□June Bride
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やけに騒がしいと思ったら、大通り付近はたくさんの人であふれかえっていた。
何か良いことでもあるのだろうか、みんな嬉しそうな顔をしている。

「なんだこりゃ。祭りでもあんのか?」

アンジュと買い物に来ていたスパーダは、あまりの人の多さに驚いて立ち尽くした。昨日来たばかりのこの街でいったい何が起きているのかを知ろうと、ちょうど近くにいた地元の人に尋ねてみる。

「なぁ、今日は何の日なんだ?」
「知らないのかい?今日はこの街一番の美人の結婚式さ。気だてもいいから皆の人気者でさ、だからお祝いに来てんだ」

手一杯に花束を抱えた彼は、まるで自分の事のように嬉しそうに続ける。

「それでね、花婿の方もなかなかの男前なんだ。働き者で周りから信頼されてる奴だし、まさに理想のカップルだよ」

じゃあ俺はこれで、と再び仲間の元へと帰っていった男を見送りながら、スパーダがチッ、と舌打ちをした。

「美男美女の理想的カップルだと?けっ、笑わせんじゃねーよ」
「何?スパーダ君も羨ましいの?」

その様子に、隣にいたアンジュがからかうように話しかける。

「べ、別にそんなんじゃねぇよ!綺麗な嫁さんもらえていいなとか、これっぽっちも考えてねーし!!」
「考えてたのね…」

あぁそうだよ悪いかよ、と目を伏せたスパーダに、アンジュは「スパーダ君らしいわね」と笑った。
そして急に何かを思い出したように呟く。

「そうか、今の時期はジューンブライドか。いいなぁ…」
「アンジュもそういうの気にすんのか?」
「私が気にしてちゃおかしいかしら?」
「だってアンジュは頭良いんだし、てっきりそんなの迷信だと思ってんのかと…」
「ふふ、学があろうとなかろうと、女の子はみんなロマンチストなのよ」
「女の『子』って歳かよ…」
「…何か言ったかしら?」
「い、いえ!」
「そうね、でも――心のどこかで『王子様』を求めているのは、いつだって変わらないわ」

そう言ったアンジュがあまりにも遠い目をしていたので、スパーダは何と声をかければいいかわからずに黙ってうつむいた。




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