Novel

□June Bride
13ページ/32ページ


 碓氷拓海の朝は、二人分の朝食を作ることから始まる。

 始めのころはアメリカ式の大ボリュームのをこしらえてこんなに食えるかと怒鳴られたり(彼女は自分より血圧が高いから朝からたくさん食べるかと思ったのだ)、逆にイタリア式の超簡素なのにして今度は餓え死にさせる気かと怒られたりしたが、最近ではイギリス式に紅茶と卵料理とトースト、そしてフルーツというやり方で決着がついている。

 卵料理を何にするかはその日の気分で決めているが、今朝はベーコンエッグを作ることにした。そこで油を引いたフライパンにさっとベーコンを数枚入れ、炒めきる前にぱかっと卵を二つ投下する。蓋をつけながらふと時計を見ると、そろそろ彼女を起こす時間になっていた。普段はもちろん自力で起きてくるけれど、休みの日だけは拓海が目覚まし時計を切ってしまうのだ。

 また「どうして切ったんだ」って怒るんだろうなぁとどこか楽しげに考えながら、そっと寝室の扉を開ける。ベッドで気持ちよさそうに眠るその表情に起こすのが若干躊躇われたけれど、起こさなかったら起こさなかったで余計に色々言われるに決まっているので、とりあえず起こすことにする。まぁ怒った顔も可愛いのだけれど。

「美咲ちゃーん、美咲ー?」
 顔を覗き込んで呼び掛けながら、頬に張り付いた寝乱れた髪を直してやる。ん〜、と言う呻き声。よし、今朝も生存を確認。

「美咲、おはよう。そろそろ起きる?」
「ん〜、うす、い……?」

 ふいに彼女の唇から漏れた言葉に、思わず苦笑する。
「美咲…美咲も今は『碓氷』だからね? それと…」
 今、八時半だよ。


.

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ