スキマスイッチ御題
□☆V.焦る僕 解ける手 離れてく君
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気が付くと太陽はとうの昔に別れを告げて、満月が既に当たり前のように夜空を照らし上げている。月は陽の明るさを知らないから、こんなに自分を誇張できるのだろうか。その頬を月光に染めながら、ルキアはそんなことを考えた。
定められた時間まであと十分。
昼下がりの出来事から今までの十時間近く、二人は特に何もしなかった。今更語ることも多くは無くて、ただ隣にお互いがいることさえ確かならとりあえずそれでいい様な気がした。
そして今、ルキアは長らく使って来た義骸を脱いで、死覇装を纏っている。
定められた時間まであと――
「ルキア」
決して大きくはない、けれどはっきりと自分を呼ぶ声。
「…なんだ、一護」
身体ごと向き直り少し微笑んで見せると、彼は若干困ったと照れたの間の表情を浮かべてルキアの方へと歩いてくる。
それからまたルキアの前であー、とかなんとか意味の無い声でなんだかものすごく悩んだ様子を見せたかと思うと、意を決した様に「ルキア、手ぇ出せ!」と言って来た。
「手…?」
露骨に訝しんだ表情でルキアが右手を差し出すと、瞬間ふわっとその手が包み込まれた。
少し骨ばった、自分のそれとは違う大きな手のひらに。
「一…」
「ずっとお前に言いたかったことがある」
微妙に視線をずらして、彼はそう言った。
「お前に初めて会って死神代行になってすぐの頃は…しょっちゅう死ぬ様な目には合うし相方は小生意気だしはっきり言って色んなものを恨んだこともある」
突然の告白に、ははは…とルキアが乾いた苦笑を漏らした。それについては若干負い目がある。
「それからまた色々あったろ? お袋の仇と遭遇したり、なんかよくわかんねー服と理論で喧嘩売ってくる奴と勝負したり」
「あぁ、あったなそんなことも」
「それで…向こうに帰ったお前を死ぬ気で助けに行ったこともある」
「なんだか…一方的にわたしが迷惑をかけている気がしてきた……」
「ほんとそうだな。というか俺らがあまりに色んなことに巻き込まれすぎだろ」
「まったくだ」
そう言って二人で小さく笑ったりするのももう最後。
定められた時間まであと僅か。