スキマスイッチ御題
□☆V.焦る僕 解ける手 離れてく君
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藍染率いる破面との戦いに明け暮れた長かった冬も終わり三日後には現世組も二年生になる四月上旬の昼下がり、ルキアはベッドに体育座りをして、窓から見える空を眺めていた。
春先の若干灰色がかった雲を見るのは好きだった。全てをさらけださなくてもいいと言われているようで。
ふいに改めて今の自分の状態とそんな思考を照らし合わせて、彼女は耐えきれずにその顔を膝の間に沈めた。
全てをさらけださなくてもいい? 何を馬鹿なことを言っている、お前は一番大切なことを一番大切な人にまだ伝えても無いくせに。
いや、伝えるつもりすら無いけれど。
わずかに膝から顔を上げて、卓上に置かれた時計を盗み見た。今は午後二時。……あと十時間だ。あと十時間さえたてば、もう――
「……ルキア!!」
ほとんど体当たりに近いような音をたてて、部屋の扉が開いた。開けた拍子に壁にたたき付けてしまい、棚の中のものが小刻みに震えるのが見える。
部屋の主が、帰って来た。
絶望の感情をその瞳に称えて。
うずめた顔を上げるのも億劫で、ルキアは相手の顔を見ようともしなかった。代わりに膝を抱える手に力を込める。
その様子に若干いらついたように相手がまた呼びかけてくる。今度はさっきより少し抑えた声で。
「――ルキア」
まだ動かない。動きたくない。
「ルキア」
相手がこちらへ歩いて来るのがわかった。
そして瞬間、ガッと肩を掴まれて、彼女は反射的に顔を上げてしまった。
紫暗の虹彩とブラウンの瞳が交錯する。
「…やっと目ぇ見たな」
「……離せ」
「嫌だね、今離したら絶対逃げるだろ」
「……。」
じっと見てくる瞳に耐えかねて、ルキアは目線を少し落とした。
実際は30秒にも満たないながら永遠にも感じられた苦痛な沈黙の後、相手がようやく言葉を紡ぎだす。一音、一音、彼自身が確かめるように。
「さっき、表で井上に会った」
「…そうか」
我ながらに白々しい言い方になったと思う。
「俺のこと見つけた瞬間、あいつすごい心配そうに俺に言ったぜ? 『今日は朽木さんといなくていいの?』って」
ルキアは何も言わなかった。何も言う気がしなかった。