スキマスイッチ御題
□☆V.焦る僕 解ける手 離れてく君
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「何のことかと思って聞き返したら……」
そこで相手は一旦言葉を切った。かなり間を置いた後、一気に吐き出すように言う。
「お前、今夜尸魂界に帰るって?」
その響きに単なる糾弾以外の感情を感じたのは彼への甘えかも知れないし、自分の身勝手かも知れない。何にせよルキアはこの質問をどう切り返そうかと迷っていた。
いずればれてしまうのはもちろん想定していたことだが、実際そうなったらどうするかは考えたくなかったのだ。
また訪れる不快な沈黙。次にそれを破ったのは今度はルキアの方。
「あぁ、確かに今夜帰るよ、わたしは」
できるだけ淡々と、事実だけ。
あぁでも彼になら聞こえてしまったかも知れない、自分自身の本心が。
見上げた顔が僅かに歪んだのが見えた。同時に捕まれた肩に尚更力が込められたのを感じ取る。
「――なんで」
やめて、そんな震えた声を出さないで。
「なんで、俺に言わなかった」
そう言った後、今度は彼ががくんと顔を下げた。そのままもたれてきて、首元に彼の蜜柑色の髪が当たる。
いつ見ても日溜まりみたいな暖かな色。
「一護…」
「何が悔しいって…それが一番で…自分がどうしようもなく不甲斐な…」
「いい、頼むから言うな」
言わせているのは自分のくせに、なんて自分勝手な言い分。
「なぁ…俺ってそんなに頼りなかったか?」
「え?」
「そんな大事なこと言う気もしねぇほど…」「そ、それは違う! そんなつもりでは」
「じゃあなんでだよ?」
一護がもたげていた頭をあげて、真っ直ぐこちらの目を見た。ルキアは何か言いかけて、そのままあぐねたように止まってしまう。
ルキアは迷った。本当の理由を言うべきか。
彼女の中で結論ははっきりしていたが、それを口に出せば二人の間の最後のボーダーラインが崩れてしまうような気がしたのだ。
そんな思案を巡らせている間にも、一護はじっとルキアの瞳を見つめ続ける。急かすでもなく、引き出すでもなく。
彼のブラウンの虹彩を改めて見ると、ルキアは無性に泣きたくなって、今度は彼女がその身に頭を預けた。どうしようもなく無様だったが、不思議と惨めな感じはしなかった。
うつ向いた格好のまま消えそうな声で呟く。
「……のだ」