スキマスイッチ御題

□☆U.君の話
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「なんか、すっげー不安…」
「なんだと!?」
「うるせーな、なんかてめーと果物ナイフっつー組み合わせそのものが俺に根源的不安を与えるんだよ!!」
「はぁ!? 意味がわからんぞ!」
「あー! つーかな、そもそもコレでリンゴの皮を剥いてきちんと切る、なんて殊勝なことをてめぇが今までやったことがあんのか!?」
「あるわけなかろう!! 流魂街にいた頃は果物は洗ってそのまま丸かじりだったし、朽木家に入ってからは厨房に立ったことすら無いのだからな!!」
「それは自慢気に言うとこじゃねぇ!!」

とにかく貸せ、と俺は半ば強引にルキアからリンゴとナイフをひったくった。そんな超初心者のこいつにやらせるくらいなら、遊子の料理を時たまは手伝ったことのある俺のほうが確実にまだマシだ。

しゃあねぇ切るぞと綺麗な赤色に刃を入れようとした時、俺ははたと気付いた。

 話によるとこの目の前にいるはねっかえりと白哉の名乗る朽木家とは、尸魂界の中でも四本の指に入る大貴族だと言う。

 確かにルキアが色々な事情や感情がもつれあった結果今まで朽木家で微妙に居心地の悪い思いをしていたとしても、彼女が頼めば食べやすいサイズに果物を切るくらい、使用人はしてくれるはずだ。

「お前さ…自分でもやったことねぇって自覚があんならなんで自分の屋敷の人に頼むとかしなかったんだよ」
「そ、それは……!」

明から様に目を反らすルキア。しばらくその紫暗の瞳を宙にさ迷わせたあと、しどろもどろに言葉を紡ぎだす。

「ほら、この騒乱でわたし達当事者以外の者もいろいろ混乱しているようだし…そんな状況でリンゴを切れなんて妙に平和なことを頼むのは…」
「じゃあ別にリンゴの必要無ぇだろ、もっと剥かなくていい楽なもんなんか色々あるし」
「え、いや、その…なんかこう、ピンとキたのだ! 天がリンゴにしろと言っ…ん゛に゛ぃ〜」

俺は軽くこいつの頬をツネってやった。

「いい加減なこと言うのはどの口だ?」
「わひゃった、わひゃったからひゃなせ!」



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