今更になって気付いてしまった。
気付かなければよかった。
「世話になったな」
堪えたような声に、胸が震えた。
「私は大丈夫だから」
握った右手に体中の熱が集まった。
「せめて貴様は幸せになれ」
目が離せなくなった。
「さよならだ、一護」
一言も言葉を発さない俺に背を向けて彼女は歩き出す。
瞬間、無意識のうちにその小さな背中に抱き付いていた。
「――っ!?は、離せ!!」
腕を振り回して逃げだそうとする彼女。
すがりつくように、さらに力を強めて抱きしめた。
「いきなりどうした…一護!?」
「何でだよ…」
「え?」
「何でお前はっ…」
俺に自覚させた途端にいなくなっちまうんだよ。
幸せになれだなんて。
そんな泣きそうな笑顔で言われたって。
「行かないでくれよ…」
自分の中で燻っていた感情の正体を知ったが最後。
俺はもうお前がいない世界じゃ生きられなくなっちまった。
細い体に回した両腕。
その手の甲に冷たさを感じたのと、自分の頬に涙が伝ったのは同時だった。
きみのことがね
好きですたぶん
(何もかもがもう手遅れだけど)
→あとがき