Waffle

□keitai
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「なんや、不破の携帯おもろないー」

「いきなり人の手から奪っておいて何だ」

最近ほぼ着信専用と化している不破の携帯を、時間と確認しようと取り出した不破から掠め取った成樹は遠慮の無い感想を述べた。

「不破らしい云えばらしいけどなぁ」

あ、今11時半やで、と付け加える。

「だから、何がだ?」

「ん?待ち受け」

携帯の画面を見せる。

購入当時から変えていないそれは、初期設定のままのシンプルなものだった。

「一回くらいは待ち受け変えたりするもんやで」

「特に必要性を感じないのだが」

「携帯開けて飛び込んでくる画面が自分の好きなもんやったら嬉しない?」

「好きなもの?」

「そ。サイトからダウンロードしてもええし、携帯のカメラで撮った画像でもええし」

百科事典の表紙なんてどない?

笑う成樹の提案を辞退し、不破は告げる。

「好きなもの、浮かぶのはお前だけだ」

叩かれた。

真っ赤になって怒る成樹に、何故怒られているのかを考えながらやりすごす。

そんな不破の表情に、何を云っても無駄なのだ、と今更のように成樹は息を吐く。

もうええわ、と不破の横に寝転ぶも、何かを思いついたように飛び起きた。

「不破、一緒に写真撮ろ」

不破の携帯を撮影モードに切り替え、レンズを向けながら不破に寄り添う。

「写真?」

「ん。そういや2人で撮ったこと無いなて思て」

成樹への視線を携帯のレンズに向けさせ、シャッターボタンを押す。

機械音が響き、ディスプレイには楽しそうに笑う成樹と相変わらずな不破。

画面を確認すると、成樹は慣れない手付きで、それでも器用に弄ったあと不破へと手渡す。

「携帯開いてみてや」

楽しそうに、どこか満足そうに笑む成樹に促されて開くと、いつも見慣れている画面の代わりに目に飛び込んで来たのは今撮ったばかりのカメラ画像。

思わず和らいだ表情に成樹は不破を覗き込んだ。

「どない?不破の大好きなシゲちゃんやで」

冗談めかしてニッと笑う成樹を腕の中へ招く。

後ろから抱きしめると、定位置に収まるように体を預けて来る成樹が愛しい。

「携帯を開いたらいつでも見られるな」

「やろ?ちゃーんと残しといてな?これ」

くすくすと冗談めかして成樹が笑う。

「ああ。だが…」

「何や?」

「本物の方が好きだ」

「っアホ」





*******





「不破―!」

それから数週間後、自分の到着を改札口で待つ不破の姿を見つけて駆け寄る成樹の久しぶりの笑み。

迎える不破も、柔らかな、和やかな顔をしている。

電話やメールでの連絡はとっていても、やはり会いたくなる。

それは、お互いの気持ちと、会えない時間に比例して。

「ごめんな、待ったやろ」

「大した時間じゃない。それに…」

「それに?」

「お前を待つことに嫌悪感は感じない」

「…キザ」

行くで、と歩き出した成樹の頬が赤く染まっていたのを不破は見た。

率直すぎるらしい自分の言葉に、それでも反応を返す成樹。

くすぐったいような、優しい雰囲気は、成樹といる時に多く発生する。

腕を掴んで抱きしめたい衝動を抑え込み、自宅へと向かった。



「寒くなかったか?」

部屋へ招き、暖かいお茶の入ったカップを手渡す。

だいぶ気温が下がり、夕方から朝にかけては特に冷え込む季節になってきた。

日中も、薄着で対応するのもそろそろ難しい。

「平気。暑いのより寒い方が強いねん」

おおきに、と受け取り飲みながら成樹は思い付いたように空いた手を伸ばす。

差し出された手を見つめ暫く考えた末、手を重ねてみる。

「ちゃう!携帯見して?」

苦笑しながら握り返すも、成樹はカップを置いて反対の手を出す。

ああ、なるほど、とポケットに無造作に入れていた携帯電話を渡した。

「結局待ち受けどないし…」

不破に寄りかかりながら携帯を開いた成樹が、不意に声と動作を止める。

「どうかしたのか?」

「……」

思わず自分の携帯を確認した不破だが、特に異変はない。

「佐藤…?」

「…もしかせんでも、あん時から変えてへんの…?」

『あの時』が、最後に二人で会った数週間前の事を意味している事を察し、そうだが、と答える。

「ちょお待った!ずっと!?このまま!?」

冗談で撮って待ち受けにしたその画像が、ほぼ1ヶ月変わることなく待ち受け画面として飾られていたことに何とも云えなくなってしまう。

普通に考えて、いくら仲が良かったとしても男2人くっついて撮った画像を待ち受けにし続けるのは成樹には抵抗がある。

誰に見られるのかも分からないのだ。

「佐藤?」

「…すんません、俺が悪かったです。待ち受け戻して下さい…」

『普通』が必ずしも不破にとって『普通』では無いことを改めって知ってしまった成樹だった。





*****2004/12/15
はい、そんな訳で不破の携帯のお話でした。
きっかけはずいぶん前なんですけど、不意に大地って携帯の待ち受けどんなだろう。つーか変えてないね、絶対。
とか思って友達にメールでどうだか聞いたことがあったんです。
誰に送っても「彼は絶っっ対変えてない!」との心強い返事が返ってきたのでこんな話を作ってみました。笑。
ただ2ショット待ち受けラブイな、とか考えてただけです。ごめんなさい。笑。

タイトルは…「携帯」笑。

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