Waffle

□ceremony
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「佐藤成樹はあげるわ」


今まで引きずってきたものを、全て捨て去って。


「俺は、藤村成樹になる」


ここから、新しい一歩を踏み出す。





***

罪の意識なんて感じもしなかった。

血縁の大人の手から離れてもどうにでもなる、なんて高を括りながら。

自分の手で、道を切り開こうと。


そして。

飛び出した先で、自分にとって掛け替えの無い物を、人を、見つけた。

あの時の自分を、後悔などしていない。

見つけたものの大切さを、充分に感じているから。




「そろそろ式、終ったかいな」

簡易駐車場として無数の車で埋まっている校庭を横目で見下ろす。

絶好の天候に恵まれた、市立桜上水中学校の卒業式。

本来、主役の一人として体育館での儀式を受けているはずの成樹は、三年間サボる場所として提供し続けていてくれた屋上の給水塔の上で、中学生最後の昼寝をしていた。

一日たりとも同じ姿を見せなかった青空。

同様に、一日たりとも同じ日など無かった。

風に我が身を預けて流れる雲に、その全ての記憶を浮かべる。

思いを空に、還すように。



「別れはすんだか?」


視線を声の主に向けると、自分に背を向けて腰を下ろす不破の姿が視界に入る。

「迎えに来てくれたん?」

何に対しての別れなのかは聞かずに笑うと、すぐ近くに置かれている手が、髪を撫でた。

ほんの少し肌寒い風が、二人の髪を微かに遊ばせて通り過ぎた。

「水野たちが、最後の最後までお前らしい行動だ、と苦笑していた」

「やろな。いい加減、行動パターン熟知されたやろ」

きっちり制服着て真面目に出てみても周りの反応楽しめたやろなぁ、と続ける。

どこか、フィルターが掛かっているみたいだ。

「・・・明日行くのか?」


後ろ手に片手をつき振り返った不破の、予想外の問い掛けに、驚く。

視線を合わせると、何もかも見透かされているような瞳に、自分が映っている。

成樹の反応で肯定の意を汲み取った不破は、何も云わず体を戻した。

その背中を見つめ、起き上がると、そっと、不破の左肩に頭を預ける。

「・・・な〜んで不破にはバレるんやろ」

苦笑する成樹の頭に軽く触れる不破の左掌が、不思議な安堵感を与えた。

やがて触れた唇の熱を噛み締めるように、瞳を閉じる。





『自由』が欲しくて、外へ飛び出した。

『自由』に縛られるなんて、思いもしないで。

そして自分の無力さを突きつけられた。

頼ったのは結局、一度手放して逃げ出した筈の、血縁者の手。


自由を求めて逃げ出した場所へ、自由を乞うために舞い戻る。





自分の運命に。


迷って。

投げ出して。

逃げ出して。

見つけ出して。

真正面に向き合って。



「・・・なあ、不破?」

離れていく唇に目を開けて、しっかりと伝える。

今日という日に、両手いっぱいの感謝を。

これが、今までの自分からの、卒業の儀式。

「佐藤成樹はあげるわ」

今まで引きずってきたものを、全て捨て去って。

「俺は、藤村成樹になる」

ここから、新しい一歩を踏み出す。

急がなくていい。立ち止まっても、振り返っても構わない。

ゆっくりと進んで行こう。

「せやから、仕切り直ししたいんや」

自分の足で。一つひとつ踏みしめて。





「不破の事が、好きやねん」





*****2004/04/16
慶子たん様、リクありがとうございました!
また生温い感じでごめんなさい。しかも1テンポ遅れた時期でお贈りしております。
実はこれ、3月頭にはすでに出来上がっていたのですが、うちのパソが壊れかけてフロッピーが開けないという、何とも空しい状態で放置されていたのです。
間が悪いことこの上無かったですね…。
シゲの心のイベントという事で書いてみましたが…、シゲが可愛くなりませんでした。嗚呼。

タイトルは「儀式」です。

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