Waffle

□miracle
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扉を開けると

見慣れた自分の部屋。


余計な物は何もない

質素な部屋。


見渡して、

小さな溜息を1つ。


当たり前な事なのに、

誰もいない、

と考える。



アイツの体温が
恋しくなる。






部活終了後の少し長い帰り道。

冬の到来を知らせるように日没が早くなり、既に辺りは薄暗い闇に覆われ始めている。


一緒に帰る事は、もう珍しくもない。


視線をほんの少し隣に向ければ、そこには闇に溶け始めた少し茶色の、短い髪。

その前髪から覗く綺麗な目が、幾度か瞬きをし、こちらの視線に気付いたように向けられる。


視線の交わった、その、刹那。


その表情は、二人でいる時によく見る穏やかな表情へと変わっていく。

思わず、視線が釘付けにされた。


見慣れているはずなのに、その優しい表情が嬉しくて。

そっと自分の指を、不破の長くて大きな指に絡めた。



冬は好きや。

夏とあんま時間変わらへんのに、こないに外が暗なるから、手ぇ繋いでも分からへんし。


歩きながら、そんな事を云ってみる。

使い慣れていない言葉と態度に、自分で自分の顔が微かに紅潮しているだろうと自覚した。

何となく恥ずかしくて、照れ隠しに笑ってみせる。

と、視線を反らさず聞いていた不破に、突然強く腕を引かれ、抱きしめられた。


驚きに不破の名前を紡いだ自分の唇が、そのまま不破の唇によって塞がれる。

触れた唇から、体が熱くなるのを感じた。



やがて離れていくその熱を惜しむように。


好き。


口から洩れた言の葉が、秋風に舞った。






「なんや訳分からんスイッチ入ってたなぁ、俺」

閉じた扉を背に、その場に座り込む。

『淋しい』なんて、そんなこと云うガラじゃない。

頭の隅に押し込み、立ち上がって敷きっ放しの布団に寝転がる。


今日に限って、思い出すのは不破の事ばかり。



──ピリリッ

真っ暗な部屋に、突然小さな光を放ちながら携帯が鳴り響く。

相手を確認することも忘れ、慌てて通話ボタンを押す。

「もしもしっ……いえ、違いますけど」


期待は、空回る。

…会いたい。




「シゲ!起きろ!」

「…ん…?」

同じ寺の同居人の声で目を覚ます。

いつの間にか点いていた蛍光灯の光が眩しくて、目を細める。

近くの時計を見ると、夕食の時間帯だった。

「…俺、今日メシいらんわ」

「バーカ、客だ。不破くん」


「…不破ぁ?」

自分の耳を疑い、驚いて勢い良く飛び起きると、そこには、確かに不破が居て。

どうぞ、と不破を招き入れた同居人は会釈して部屋を出ていった。

状況がよく掴めない。

先程別れてから、30分も経っていないのだ。


「外から見て、窓に明かりが無かったから留守かもしれないと思ったんだが」

突然来て悪かったな、と謝る不破に茫然としていた意識が戻る。

「…あ、ええよ。ただのうたた寝やったし。それに…」


云い掛けて、何でもない、と首を振る。

会いたかった、なんて言い出しにくくて。


その時。

大きな腕にふわりと包まれ抱きしめられた。

「…不破?」

「お前の笑顔と『何でもない』は当てにならない」

何かあるのなら云ってみろ。無論、強制はしない。

この直球さに、思わず苦笑するが、ふと疑問に思う。

まさか…。

「…それだけのために来てくれたん?」

口調でだいたい不破の表情は分かる。

でも。

微かに変わる表情を見逃したくなくて、不破を見上げる。


それもあるのだが。

前置きをする不破の表情が、微かに変わる。

「顔が見たくなった、と云ったら笑うか?」

僅かにはにかんで答えてくれた返事の意味を、暫く考える。

「先程別れたばかりだったが、何故だか理解出来ない。ただ、会いたくなった」


会いたかった。



それは、

ほんの小さな

小さなキセキ。



「…泊まってく?」

どうしようもなく嬉しかった。

あまりにも嬉しくて、それ以外の言葉が出ない。


だけど。

だから。


自分も会いたかった、なんて絶対に云わない。

云わなくても、どうせバレてるって知ってるし。



でも、たったそれだけのことでも。

他の誰かじゃダメなんだろう。

不破といれば、きっと余計な言葉なんていらない。



─気持ちは、伝わる。





*****2003/12/02
男前で格好いい不破を目指していたら、妙に乙女なシゲが完成☆
…ごめんなさい、進歩がない…。
未来様、大変長らくお待たせしました!
リクが満足に消化しきれてなくてごめんなさい。
どうもありがとうございました!お粗末様でした!!

タイトルは「奇跡」です。

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