Waffle
□L.M.W.Y.A.H.B.
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雨が降っていた。
聞こえてくるのは天空から降り注ぐ空の雫と不定期に近付き遠退いていく無機質な車の通過音。
そして時折遠くで響く雷鳴。
あとは暗い静寂が全てを包み込んでいた。
「今年も雨やったなぁ‥」
窓に切り取られた暗い空から、無数の雨がガラスを打ち付ける。
壁に寄り掛かった状態で座っている成樹が、窓の外を見ながら独り言のように小さく言葉を紡いだ。
「何で七夕に限って雨降るんやろな」
「この雨だと明日まで続くかもしれないな」
成樹の隣に同じように座り、外を見ていた不破がそれに答える。
「…何や、人の誕生日まで降り続くつもりかい」
ほんの少し苦笑し、不可抗力な雨に文句を云いながら、成樹が不破に寄りかかる。
肩口に頭を擦り寄せれば、その仕草に微かに口元を緩めて抱き寄せる不破の体温が伝わる。
その心地良さにそっと瞼を閉じた。
「せやけど俺ら織姫と彦星やのうて良かったな」
体を預けたままぽつりと漏らした成樹の声が、雨音に溶ける。
唐突に何を云い出すのかと首を傾げる、そんな不破にニッと笑い掛けた。
「やって、ただでさえ一年に一回しか会われへんのに雨が降ったら会えへんねんで?」
だいたい一年に一回て時点で耐えられへん。
会いたいときに会いに行きたいやん?
自分の頬を不破の肩にそっと埋めながら成樹は呟いた。
その、昔から変わっていない考え方や甘えるような仕草。
抱き締める腕に力を込めてやると安心したように預けてくる、体重と野良猫のような心。
出会い、気を許し始めた頃から変わらない表情と態度を、愛情を、疑いなく感じられるのは今までもこれからも、自分だけの特権。
間違いなくそうだと信じている、小さな独占欲。
だから、余計な言葉は、いらない。
伝えたいのは、たった一言。
目を開けると、時計は真夜中を過ぎていた。
再び目を閉じ、腕の中の体温を強く抱き締めた。
「佐藤…」
耳元で贈る、心からの祝いの言葉。
「何度目やろな、不破におめでと云われたの」
おおきに、くすぐったそうに首を竦めて成樹がはにかむ。
綺麗な顔を少し赤らめた成樹の唇に、一瞬だけの、軽いキスをした。
不意をつかれ、不破の唇が自分のそれに重なった。
驚きを隠せなかったらしく、してやったり、と微笑う不破を悔しさと照れ隠しに睨みつけた。
だが不破の表情を見る限り、自分に勝算は無さそうだ。
もう一度軽く睨みつけると、諦めて大人しく不破の腕の中に戻った。
不破は成樹を抱き締めたまま、髪を梳くように何度も頭を撫でている。
気持ち良い睡魔に誘惑されながらも、
「なぁ、不破…」
流れる沈黙の中、成樹が呟く。
「先に未成年解禁やな」
…大人の仲間入りや。
少し、掠れた淋しそうな声だった。
「何故そんな顔をする?」
顔を覗き込んだ不破が額を合わせてくる。
「佐藤は佐藤だ」
「…別に成人した実感がある訳やないけど、…淋しい」
珍しく聞く、小さくて弱々しい声だった。
「俺はお前がお前なら、年上でも藤村でも構わない」
これからもお前の誕生日を隣で祝う。
不破から贈られた制限の無い約束。
驚き見開いた瞳が微かに潤んでしまったのを見られたのかもしれない。
そっと、瞼に不破の唇が降りてきた。
まだ、雨は止まない。
天で会うことが出来ず、嘆く二人の涙かもしれない。
だから、笑顔で過ごそう。
目の前には不破から貰い食べかけたケーキと
一輪挿しに飾られた夏を表す太陽の花
隣にはいくつになっても変わらない
掛け替えのない大切な人
今、この瞬間を共に過ごせること
それだけでこんなにも幸福
こんなにも…幸せ
*****2003/08/01
愛しの成樹のバースデーです!あれれ日付どうよとかナシでお願いします、泣。
もう少しリアルタイムに書けないものかと反省中。
今回、15歳か20歳かという設定に悩みました。でも折角大人になったんだしvv笑。
…と、悩んだ時間は10分掛かったか否か。
そして出来上がってみれば…なんか暗いし!苦笑。ごめんなさい〜‥
改めて、シゲ、誕生日おめでとう!
タイトルは「Let me wish you a happy birthday(誕生日おめでとう」の略です。