Waffle

□SUN&MOON
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求めたものは、空に浮かぶ、太陽のような人でした。



中学最後の期末考査を目前に控えて、部活は試験休みに入った。

帰りのH.R.が終わり慌ただしく騒めく教室を抜け出すと、視線が何かを探していた。

隣の教室を覗き込み、廊下を見渡し、視線を上に上げたところで『何か』を理解し、思わず苦笑する。

シゲ。

何度目かの今年一番の冷え込みと云われた今日に、屋上にいる可能性は半減し。

しかし、教室にあった鞄は、確かに主人が帰宅していない事を告げていた。


特に用事って訳じゃないけど。

何となく、会いたい。


廊下から空を見上げてみると、あまりにも部活日和りな晴天で。

少しだけ残念に思いつつも、その光に『何か』を重ね、歩きだした。


「シゲ?」

捜し回って、ようやく見付けたのは図書室の中。

人気も無く、静まり返った放課後の図書室は、心なしか物悲しい。

成樹はその奥の、読書用に設けられた机の隅を陣取って眠りに落ちていた。

「よく寝る奴…」

カタンと音をたてて隣に座ると、重たそうな瞼がゆっくりと開いた。

「…たつぼん?」

「H.R.終わったぞ。いつから寝てたんだよ?」

寝ぼけ顔で見上げてくる成樹に、ほんの少し呆れ顔で問い掛けると。

「ん〜…、昼過ぎ…やろか?何や眠とうて。メシ食ってそのまま…」

「メシはちゃんと食ったんだな…」

彼らしいと云えば彼らしい、動物的本能への忠実さに言葉を失う。

「…あ、せやった。俺な、たつぼんに頼みがあるんや」

体を起こさないまま、成樹は竜也を見上げる。

ふわりと笑った成樹の顔に少し早まった鼓動を抑えつつ、何だ、と尋ねると。

「もうすぐ期末あるやん?勉強教えてや」

「…え?」

あまりにも成樹には似合わない言葉に、竜也が固まる。

「…お前が勉強するのか?」

雨が降る、せっかく晴れてんのに。

竜也のきっぱりとした言葉に、ひどいわ〜、と成樹。

「もうすぐ受験やん?試験落ちたら留年やろ?それはさすがに勘弁やで」

あかん?と片肘をついて向けられている満面の笑みに、断る理由は存在しなくて。

代わりに存在したのは、二人になれる理由だった。

「…別に、いいけど」

「ほんま?おおきに」

どうせ最初から断らない事を分かっていたのだろう、その笑顔。

甘え上手な成樹には、竜也はいつも適わない。

「ほな、明日からええ?」

「ああ。取り敢えず、帰るか」

窓越しに見える、紅色に染まり始めた空は、二人に帰宅を促していた。



「なぁ、シゲ」

いつもの帰り道、ほんの少し前を歩く金色の髪に見惚れながら声をかけた。

「ん?」

「勉強、俺よりも不破とかの方が頭良くねぇ?」

…ああ、と振り返った成樹は思い出したように苦笑してみせた。

「一回な、不破に教えてもろた事あんねんけど…えらい目に合うたんや」

最初はその意味を理解出来ず、首を傾げていた竜也。

だが、次第に何を意味するのか分かり、思わず吹き出してしまった。

「ちょ、笑い事やないて!ひたすら訳の分からん呪文、くどくどくどくど唱えられるんやでっ!?」

頭おかしなる思たわ、もう!

むぅ、と顔を顰める成樹に竜也の笑いは止まらず。

「呪文じゃなくてただの数式だろ」

「うわ、嫌味な人がおるー」

「授業サボってばっかりいるからだ。自業自得」

「うー、不破からは呪文攻撃、たつぼんからはお説教攻撃で俺って絶体絶命シメンソカやー」

「四面楚歌って漢字で書けるか?」

「…たつぼんがいじめる」

腹筋が痛くなるほど笑っていると、何時の間にか二人を分かつ道に差し掛かっていた。

「じゃ、またな」

一度振り返って踵を返す。

と、

「たつぼん、家庭教師の代金前払いで奢ったろか?」

聞こえてきたのは成樹の声。

振り返えると、成樹が近くの自販機を指差して笑っていた。

「ミルクティでええ?」


尋ねた成樹に、竜也はしばし考え首を振る。

「こっちがいい」

不意に成樹の唇に、竜也のそれが重ねられた。

一瞬の出来事に呆然としてしまった成樹を見。

「…じゃあなっ」

少し顔を赤らめた竜也は、少々急ぎ足でその場を後にした。




一緒にると心が暖かくなる。

太陽…みたいだと思う。

それなら自分は、まるで月のよう。

その金色の光が欲しくて。


傍に、いたくて。




「…奪われてもた」

不器用な竜也のそれに苦笑いを零し、空を仰ぐ。

そこには綺麗な満月が輝いていた。





*****2003/02/01
え?お月見ネタ…?またこんな駄文作っちゃって…。
月夜様、こんなもんで宜しいでしょうか…?
遅くなってしまって申し訳ないです!少しでも気に入ってくだされば幸いです。
どうもありがとうございました!

タイトルはそのまま「太陽と月」です。

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