Waffle

□bud
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初夏にしては涼しく、風のよく吹く日。

成樹は屋上の特等席に寝転んでいた。

昼食を食べ終え、満腹感が眠りを誘う。

それに逆らわず眠りに身を任そうと目を閉じた、が。

「佐藤」

「…?おわっ!!」

ゴツッ‥

ふいに声を掛けられ目を開けると、自分を覗き込む不破の姿。

それに驚き、反射的に起き上がった成樹の額と不破のあごが鈍い音をたてた。

「〜〜っ」

互いに痛む場所を手で押さえながら耐える。だがすぐに涙目の成樹が口を開いた。

「あーもー何やねん!ビックリするやろ!」

「声を掛けただけだろう?」

勝手に驚いて飛び起きた成樹の激突に巻き込まれた上、文句のオマケ付きに不服そうな不破が言葉を返す。

「…ま、ええわ。どないしたん?もうすぐ5限目始まるで?」

成樹の声とほぼ同時に予鈴のチャイムが学校中に響く。

それを何処か遠くに聞きながら、再び寝転がる成樹を見て苦笑した。

「またサボるのか?」

「ん。食うもん食ったら眠うなってな」

笑いながら、成樹は目を閉じて手をヒラヒラと振った。




「…不破ぁ…授業始まっとるでー?」

先程から全く動く素振りを見せない不破の気配に、寝付けずにいた成樹が痺れを切らせて目を開ける。

本鈴が鳴ってから、すでに10分は経過していた。

「授業出ぇへんの?不破センセがサボるやなんて紅い雪降るで」

からかい口調の成樹の言葉に不破はたっぷりと間を空けて答えた。

「…近くにいたいと思った」

瞬間、へ?と成樹の笑みが止む。

その間も不破は、心の中で解けない疑問に悩まされていた。

顔は無表情だが。

「最近お前の近くにいると居心地がいいと思うようになった。よってそれに従い傍にいるのだが…」

「ふ、不破?」

「傍にいればいるほど今度は触れたいと思い始めた。だがあまりにも不可解すぎる。その上、そう思うのが何故お前一人だけなの…」

「不破ぁっ!!」

スパ─ンッ!

小気味よい音が響き渡る。

真っ赤になった成樹が耐え切れず不破をはたいたのだ。

「自分、恥ずかしないんかっ!」

「何故だ?」

不破の表情を見ると、頭の上に疑問符が浮いているように見える。

…自覚無いんかい…、何で俺が教えなあかんの…。

成樹は溜め息をついて疑わしき感情の説明を始めた。




「…なるほどな。ではそのような感情を一般に『好き』と云うのだな」

「…一概には云われへんけどな」

納得してスッキリした表情の不破と、どこかきまり悪そうな、気恥ずかしそうな成樹。

「佐藤」

「…何や?」

本当は目を合わせるのも気恥ずかしいが、目線をそっと不破に合わせる。

視線が合ったのを確認し、不破はゆっくりと口を開いた。

「俺はお前が好きだ」



予想はしていた言葉だった。

でもそれは、本当に真剣な表情で。

真っ直ぐな、瞳で。




暫しの沈黙の後、成樹は少しはにかんで答えた。

「おおきに。せやけどソレ、女に云うセリフやで?フツーは」

「『普通』とは『絶対』ではないからな。必ず例外はある」

「…それが、お前?」

成樹は少し照れくさそうに笑うと、不破に寄り掛かった。

「お前みたいに告られたの、初めてやで」

その表情はいつもと変わらない笑顔のようだったが、どこか柔らかくて。

不破は、そっと成樹に口付けた。




始まりはもうじき訪れる、夏の匂いがした。




*****2002/07/29
111を踏んでいただいたユング様からのリクエストです。
実はこの頃告白とか始まりなどの話をあまり考えたことなかったので、かなり必死で作った気が…。笑。
こんな話ですが、気に入って下されば幸せだなぁと切実に思います。

タイトルは、感情の「芽生え」の意です。

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