Waffle
□fireworks
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──夏休み。
抜けるような青空が朱色に変わる頃、成樹は河川敷を歩いていた。
周辺では今日行なわれる花火大会のためか、出店が多く立ち並び、気の早い見物客で賑わっている。
その中を目的もなく歩き家路につこうとしたとき、
「佐藤?」
ふと呼び掛けられた。
「なんや、不破も花火見物なん?」
でも声の主はすぐに分かって。
振り返って笑い掛けるその先には、相変わらず黒を基調とした服を身につけている三白眼の彼。
「いや、近くを通っていたら賑わっていたから寄っただけだ」
家に帰ろうとしたときに成樹を見付けたらしい。
「さよか。ほな今からヒマなん?」
「ああ。これといって用事はない」
「なら寺で一緒に花火見よ?寺からよう見えるで」
不破は成樹の誘いを受け、二人で2,3軒ほど出店に立ち寄って食料を確保し、成樹が居候している草晴寺へと向かった。
「…お前が云った『寺からよく見える』の意味がよく分かった…」
「せやろ?」
ため息をつき、呆れ顔の不破にニッコリと笑い返した成樹は、先程買った少し大きめなタコ焼きを1つ、一口で頬張る。
その光景に驚き、興味深そうに見ていた不破が、ふと笑った。
「屋根に登る、その大きさを一気に口に入れる。お前を見ていると飽きないな」
そう、成樹は不破が止めるのも聞かず、和尚には内緒でこっそりと本堂の屋根の上に登ったのだった。
確かにここならば他の家の屋根に邪魔をされずに花火を堪能できる。
人混みもなく、場所取り争いとも全く縁の無い場所。
そのとっておきの場所に不破を案内してやりたかったのだ。
満足そうな笑みを浮かべる成樹を前に、否定的な言葉は全て無になるのではと考えていた。
いつの間にか星が瞬いている真っ暗な空に、巨大な花が花開き、壮大な音が響き渡った。
「お―!夏や〜て感じするわ」
夜空に狂い咲く火の花に、成樹は感嘆の声を上げる。
「夏の風物詩の1つと云うだけはあるな」
「そやな〜」
ニッと笑い、そのまま後ろへと寝転がる。
斜面が空を見上げるのに調度よく、背中に当る瓦の感触もさほど気にはならない。
「最初に花火を考えだした奴、すごいなぁ」
寝転がったまま成樹が呟く。
「日本で最初に花火を観たのは徳川家康だそうだ。それに刺激された徳川家の鉄砲組が花火製作を始めたと云われている」
独り言のつもりで云った言葉をまともに返答した不破が可笑しくて、思わず吹き出した。
「?」
「いや、不破センセ、博士やな思うて」
「そうか?」
笑いを必死に堪えようとする成樹に、いささか疑問を抱いている不破の顔がますます訳が分からないと云うような表情になる。
よく見ると全然無表情でも、無口でもない事が分かって。
「俺もお前見とると飽きんわ」
自然と笑みが零れていた。
その表情に魅せられ、不破は寝転んだままの成樹に覆い被さるようにして、触れるだけのキスをした。
「…なに欲情してん、自分」
「お前がそんな顔するからだ」
瞼や耳元へと次々に施されるキスがくすぐったくて少し身を捩る。
「花火見れんで?」
「生憎、お前の方が気に入っているからな」
頬に口付けて、成樹の髪を撫でるように優しく梳く。
そして、成樹を真似て隣に寝転がると、空を見上げた。
どうか来年も二人で。
無意識にそう願う。
この赤や青や黄色に光る幻想的な花々の下、
互いにそっと、手を繋いだ。
*****2002/08/06 なんかひたすら甘くてごめんなさい。
花火をテーマにしたのは先日かなり近場であった花火大会に行ってきたからでした。
何となく話が浮かんできたので忘れないうちに文章を完成させました。
文章…?
感想頂けると幸いです!踊り狂って喜びます。
お付き合いありがとうございました☆
タイトルはそのまま「花火」です、笑。