咲き匂う花
□淋しい夜には
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子の刻が近づいてきた頃。
藤原邸の庭先に人影が一つ。
「鷹通…いるかい?」
庭先からそっと彼の人をよぶ。
「友雅殿?このような時間にどうされました?」
特に慌てた様子もなく、御簾から鷹通が出てくる。
「まだ仕事をしていたのかい?相変わらず熱心だねぇ」
「いえ…少し読み物を…」
眼鏡をくいっとあげながら、鷹通は友雅を見る。
月明かりのせいか、いつもの飄々とした感じがなく、何故か消えてしまいそうな感じを受ける。
「友雅殿?」
鷹通はその存在を確かめるように友雅の名を呼ぶ。
「鷹通のことを想っていると眠れなくなってしまってね」
からかい混じりに微笑む友雅。
「…なっ」
「ついつい来てしまったよ」
ふわりと侍従の香をさせながら、友雅は鷹通の前に立つ。
「今夜は一緒にいてくれまいか?」
にこりと笑われて断る理由もなく、鷹通は友雅を部屋のなかへ招き入れる。