メモ@
独り言だったりネタだったりSSだったり。
*
◆大学生武三
大学生武三/ハロウィンだよー
仮装して歩く人々の間をぬうように歩いて、舌打ちが漏れた。
騒がしくて、煩わしい。
武田がバイトとして働いている喫茶店も、今日は仮装している客が多かった。
ハロウィンの生まれや背景などろくに知らず騒ぎたいだけの連中は、本当に低能で他人への迷惑も考えない。
店内にゴミを撒いて帰ってしまったので、その片付けで遅くなってしまった。
上着のポケットに入れているスマホが振動する。確認すると三木君からだ。
『珍しく遅いな。悪い、夕飯どっかで買ってきてくれ』と、心配してくれている様子のメッセージに嬉しくなる。
返事をしながら、そういえば三木君は今日はハロウィンだと気づいているだろうか、と考えて思い付く。
私が『トリック・オア・トリート』なんて言ったら、どんな反応をするのだろう。
ハロウィンに特別興味があるわけではないし先程まで、それを理由に騒いでいる者を馬鹿にしていたのだけれど、三木君がどうするのか、その一点にはとても興味がある。
まぁ、三木君のことだから無視するかな。
コンビニで買った弁当を片手に帰宅する。「ただいま」と部屋に入って行くと、既に居る三木君が「おかえり」とだけ寄越す。
見れば、課題なのかテーブルの上は開いた本が数冊乗っていてノートにペンを走らせている。
三木君お弁当買ってきたよ、と声をかけるも生返事しか返らない。ふむ。
「三木君…トリック・オア・トリート」
そう言ってみる。三木君は私のほうを見もせず、左手を差し出してきた。思わず両手で受け取る。
これは、今忙しいから黙って大人しくしてろ、そういう態度だ。嬉しい。
三木君は真面目で誠実で、だいたい誰に対しても優しく、雑な対応はしない。そんな三木君が私には、こんな態度を取ったりする。
心を許してくれている、そう思えて嬉しい。そんなことを言ったらきっと三木君は、お前は変な奴だなってあどけない笑顔を見せるのだ。
三木君の左手にマッサージを施しながら、思い付く。
三木君の手を持ち上げ、そっと手の平に口付ける。ちらりと三木君を見ると視線が合うものの、三木君は興味なさそうにまたノートに向かい合ってしまう。
親指の付け根あたりに歯を立てると、三木君の指先がぐっと頬に食い込んできた。
「なにしてんだ、お前」
呆れたように言ってくる。
「私は、トリック・オア・トリートって言ったんだよ、三木君」
私の言葉に、何言ってんだお前、そう言ってからやや考え込むように黙った三木君は数秒後、色々納得したようにハロウィンかと呟く。
武田、と声をかけてきた三木君はおもむろに身を乗り出してきて、とっさの事に反応出来なかった私はそのまま後方に倒れてしまう。ごんっと後頭部に痛みが走る。
痛みよりも、私の腰を跨いで馬乗りになってきた三木君が何やら不穏な、否、いやらしい笑みを浮かべていて目が離せない。
この流れはあまり良くない。
「武田、お前にとっては俺がお菓子ってことか?」
「そうなるね」
「じゃあ、俺の邪魔しないで大人しく待てが出来たら、後でたっぷりご馳走してやるから…待てるよな?」
身を屈めてきて耳元で囁く三木君の低い声は、それだけで腰にぞくぞくと快感が這い上ってくるようだ。
いつだって、簡単に主導権は三木君が握ってしまう。いや、違う…私は最初から主導権を三木君に渡している。
「大人しくしてるから、課題早く終わらせてね」
そう言った私に、三木君はどうしたのか、あーっと言いながら身を起こして片手で顔を隠してしまう。
今の返答は気にいらなかったのだろうか。
三木君、と呼びかけると顔を見せた三木君は楽しげに笑う。
「気が変わった。武田、トリック・オア・トリートだ」
「えっ…ええと、お菓子は持ってないよ」
返した私に再び身を屈めてきた三木君の顔が近づいて、ちゅっと音を立てて私の唇に三木君の唇が触れる。
ここにあるだろ、と吐息が唇にあたる。
たくさん食わせろよ、そう言った三木君の唇を私は自身の唇で塞いだ。
ハッピーハロウィン!
おしまい。
メールのお返事の下書きの続きを書こうとしていたはずなのに…未送信フォルダの一番上にこいつがありまして…つい…
ハロウィン過ぎてますが、書き出したのは10月30日だからセーフ!
2019/11/07(Thu) 03:57
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◆大学生武三
見慣れないものを見た。なにやら珍しいのでじっと見ていると、見られている武田が軽く首を傾げる。
「三木君?なに?」
「お前、リップクリームなんて今までつけてたか?」
見慣れないもの、それはリップクリームをつける武田の姿だ。
武田はあぁ、と笑う。
「今年からつけるようにしたんだ」
そうなのか、と頷く。そうだよな、確か去年は使ってなかった。冬時に、唇が乾燥して切れて痛い、などと言いながらリップクリームは苦手だとつけてなかった。
「苦手なんじゃなかったか?」
リップクリームが苦手ってのも珍しい気もするが、苦手なものを武田が受け入れているなんて、一体どういう心境の変化だ。
「え?だって、唇が荒れてガサガサしてたら、三木君が痛いかも?って思って」
「俺?が痛い?」
なんでお前の唇がガサガサだと俺が痛いんだよ?疑問に思う俺に、何か変なことを言っただろうか?という表情を向けてくる武田。
考える前に手が伸びて、武田の唇に触れて解を見つける。
人差し指と親指で下唇を挟んで、柔らかいその感触を楽しむ。
「ちょっ、三木、君…な、なに?」
「いや、お前がいつこの潤った唇を、俺の肌に味わわせてくれんのかなって」
俺の言葉に武田は目を見開いて、それから楽しげに細める。
手を取られ、武田の顔が近づいてくる。
「今すぐに」
吐息が唇にあたって、混ざる。
リップクリームはリンゴの香りがした。
終わり
2019/10/28(Mon) 14:27
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◆突然の武三
『君の爪先』
隣に座る三木君が何かを言うのがわかったけれど、彼の綺麗に切り揃えられた爪先が眩く少しも耳に入ってこない。
うん、と適当に相づちを打つと不意に視界に三木君の顔が入ってきた。
「おい、聞いてんのか、てめぇは」
間近な顔は不快げだ。
「ごめん、えっと…何かな?」
慌てて顔を離し、謝る。聞いていなかった事が知られるが仕方ない。
「虹が出てるって、言ったんだよ。てめぇは何見てんだよ、俯いて」
下に面白いもんなんかねぇだろ、と首を傾げる三木君に私は笑う。
私には虹よりも面白い。
「三木君の手を見ていたんだ。爪を切ったんだね」
私の言葉に三木君は一層不愉快そうに眉を寄せた。
何か気に障ることを言っただろうか。
「てめぇ…そりゃ嫌味か?」
「え?」
嫌味のつもりなんて、勿論ない。
何故そう思ったのか聞こうとして、思い出したかのように背中がじくりと痛んだ。
昨夜つけられたばかりの爪痕は、まだ治っていない。
「……爪、切らないほうが、私は良かったな」
君がつけるそれは、まるで、所有物の証のようで、私はその痕すら愛しいと思うのだ。
三木君は私を少し見つめ、呆れたように息を吐いた。
「安心しろよ、歯はあるからな」
そう答え、ふっと視線が逸らされる。
私も苦笑と共にその視線を追った。
そこには今にも消えそうな虹があったが、私には三木君の髪の間から僅かに見える赤くなった耳のほうが、美しいものに見えるのだ。
■なんか雨宿り?した時の話みたいな…
◆内緒のこと
大学生武三
「起きろ、武田」
この1ヶ月、武田の朝はこの一言から始まる。
軽く頬を叩く柔らかい手に、武田は笑みを隠しきれないまま目を開ける。
「おはよう、三木君」
「なに、起きた瞬間からニヤニヤしてんだよてめぇは」
三木は武田の頬を先程より強く叩いて、ベッドから降りようとするが、それより早く武田の腕が三木の腰に伸びる。
「おい、だらだらしてんじゃねぇよ、遅刻すんぞ」
「う〜ん、三木君がおはようのちゅうしてくれたら起きる」
腰を抱きしめ、額をぐりぐりと押し付けながら言う武田に、三木は溜め息を落とす。
「お前それ毎朝のように言うけどな、俺がしたことあるか?」
「ないです。でも、言い続けたら、優しい三木君はいつかしてくれるかもしれないから」
顔を上げた武田は、期待のこもった目で三木を見上げる。
鬱陶しい、と呟いて三木はその武田の額を指で弾く。
「でも、三木君。私は知ってるんだよ?」
「はぁ?なんだよ、いきなり」
何やら勝ち誇った笑みを浮かべた武田に、三木は訝しげに問う。
三木としては、いい加減ベッドから離れたい。
「三木君、私に声をかける前に、ほっぺにちゅうしてくれてるでしょ」
「なんだ、そんなことか」
どうでもよい、と言いたげな三木に武田は目をぱちくりさせる。三木の反応が予想外だったのだ。
「えっ、驚かないの?…私としては、そこですごく恥ずかしがる三木君が見れると思ったのに」
「ば〜か、てめぇの寝たふりなんて、とっくにバレてんだよ」
「…私が起きてるの気がついてて、してたの?」
「言われる前にしてやってんだから、起きろ」
腕をほどき、立ち上がる三木に「なんだかずるくないですか」と呟いていた武田は、あっ!と声を上げる。
「三木君、いつも私より先に起きてるってことだよね?あの…三木君も、寝たふりとかしたことあるのかな?」
武田の問いに三木は振り返る。何故か情けない表情をしている武田に、三木は軽く息を吐いた。
「なんで俺が寝たふりしなきゃなんねぇんだよ」
その答えにホッとした様子の武田を置いて、キッチンへと向かう三木は小さく笑う。
本当は、何度か寝たふりをしていて、知っている。
武田が、寝ている自身に「好きだ」と囁く声と額へと触れる唇の優しさを。
恥ずかしくて、けれどそれ以上に嬉しく思えて、だから嘘をついた。
(寝たふりして、俺から頬にキスしてくんの待ってんのも可愛かったんだけどな、明日は流石にしねぇかな)
やや残念に思った三木は、翌朝、頬に口付けると同時にがっちり抱き込まれ唇へのキスをせがれまれることになることを、勿論いまは知らない。
終わり。
◆天土
※天霧×土方
俺が羅刹になって数日が経った。
体の調子は、正直言って良くない。それは、昼間も行動しているせいだろう。
俺が羅刹になったことを知っているのは、あの時側に居た雪村と山南さんだけだ。
近藤さんにも言わなければと思ってはいるが、俺が羅刹になったことを知れば、あの人はひどく悲しむだろう、そう思うとなかなか言う決心がつかない。
今は大事な時だ、俺のことであの人の心を乱したくない。
それから、あと一つ。
俺の頭を悩ませていること。
ふと、悲しげに俺を見つめた青い瞳が思い出される。
天霧…。
あの日、風間との戦いを止められた時から、顔を見ていない。
天霧とは恋仲、だ。
今でも、そうだと言えるのかは分からない。
雑事を片付け部屋へと戻ると、くらりと目眩がして、体から力が抜けていくのが分かった。
このままだと倒れるな、と冷静に考えた切な、崩れる体を支える腕が現れる。
「大丈夫ですか、土方」
耳を打つ柔らかい低音に顔を上げると、天霧が横に立っていた。
「あぁ、すまねぇ」
俺が言うと、いいえと短く返して、腕がすっと離れる。
見下ろしてくる眼差しは優しいものだが、苦しそうだ。
「貴方のことだから言っても聞かないと思いますが、羅刹にとって陽の光は毒です。なるべく、昼は休んでください」
「そりゃ、確かに聞けねぇな。休んでられる状況じゃねぇ」
苦笑いが漏れる。
天霧は眉根を寄せて辛そうに俺を見る。
不意に天霧の手が伸びて、俺に触れる寸前で止まる。
行き場を無くしたみたいな手が、顔の横でぐっと拳を作るとゆっくりと離れていく。
「天霧?」
「失礼、私はもう戻らないと…貴方の様子を、少し見に来ただけですので、また今度ゆっくり会いましょう」
「待てよ!」
逸らされた視線と、慌ただしい物言いに、常とは違う空気を感じ咄嗟に天霧の腕を掴むが、その手は容易く振り払われた。
一瞬、しまった、という表情を浮かべた天霧に不安が的中したことを悟る。
「土方、すみません、いまのは」
「いや、いい…分かった…今度、なんてのは、もうないんだな」
俺は、羅刹になった。
そのことを後悔はしていない。
だが、天霧は羅刹の存在を許していない。ならば、俺のことも許せない存在になるのだろう。
俺は俺で、どこも変わっていないと思っているが、それは俺の気持ちだ。押し付けることはできない。
「土方? 何を言っているんです?」
珍しく焦った声を出す。
顔を見ていられず、俯いて俺は告げる。
「もう、俺とは恋仲ではいられねぇってことだろ」
あぁ、嫌だ。こんな女々しいことを言いたいんじゃねぇ。
そこで俺は、自分が思っている以上にこいつのことが好きなんだと自覚する。
「土方、違います、聞いてください」
「違わねぇだろ、いまのは…俺への拒絶だろ」
何時だってこいつは優しく俺へ触れてきた。
あんな風に、手を払われるなんてことは、一度もなかった。
俺に触れて欲しくないと、そういう意味でないなら、なんだってんだ。
「土方、私の態度が貴方を傷付けてしまったことは、謝ります。本当に申し訳ない。ですが、私は貴方のことを好いています」
両肩を掴んできた手の強さに顔を上げる。
必死な様子の天霧に、嘘はないようだ。
「なら、お前の様子がおかしいのは、何でだよ? 俺が羅刹になったことを怒っているのか?」
今夜の天霧の様子は、どこかよそよそしい。
手を払われる前、俺に触れようとして止めたことも気にかかる。
以前ならば、その大きな手で頬を、頭をよく撫でてきたのに。
天霧は少し黙り、小さく息を吐いた。
「みっともないので、言いたくなかったのですが……嫉妬してしまって」
気まずそうに横を向く顔を見つめる。
数秒、何を言われたのか理解できなかった。
嫉妬? こいつが? 一体、何に対して?
俺の疑問が顔に出ていたのか、天霧は渋々といった体で言葉を足す。
「風間に嫉妬したんです」
「風間に?」
「貴方が羅刹になったきっかけは、風間でしょう」
そう言われると、そんな気もするが、俺はあの時冷静だった。
風間を負かす為だけに羅刹になったわけじゃない。
きっかけはそうかもしれないが、理由の全てではない。
そう答えると、天霧は困ったように笑う。
「解っています。ただ、それでも、あの時貴方の心の中には風間がいた。それがどんな感情であれ、貴方は風間に対して強い思いを持っていた」
「それは」
「貴方が抱く感情の全て、それが怒りでも、増悪だとしても、貴方がそれらの強い思いをぶつけるのは全て私であって欲しい…そう思ったんです」
俺は、じっと天霧を見つめた。
こいつが冗談などを言う質でないことは、短い付き合いでもわかる。
つまり、本気なのだ。
「そりゃ、随分と…強欲だな」
怒りまでも己に向けて欲しい、なんて。
そんな言葉が出てくるとは夢にも思わない。
呆れましたか、問う声に首を振る。ちょっと前まで、嫌われたのだと思っていた。それが、実際にはこんなにも貪欲に欲しがられていた。
一歩、天霧に近付くと、一歩後退する。
「おい、なんで逃げんだよ」
ジリジリと後退する天霧を壁まで追いつめ、睨み上げる。
「いえ、あの…嫉妬していると、言ったでしょう」
「逃げる理由にならねぇな?」
俺の切り返しに、天霧は諦めたように口を開く。
「今、貴方に触れたら、抑えられなくなりそうで」
「抑えられなく?」
「貴方は私のものだと思いたい故に、手荒く抱いてしまいそうなんですよ」
弱々しく笑う天霧の、その瞳を見ていなければ冗談だと思っただろう。
底光りする欲情の炎が、その優しい青には見てとれた。
視線ですら、俺の体を貪っていく。
「良いぜ」
端的に答え、戸惑う天霧の手を取る。
手の平に顔を寄せ口付ける。
「なぁ、俺は男なんだ。お前は俺を壊れ物にでも触れるみてぇに扱ってくれるがな、そう簡単に壊れたりしねぇし」
手を離して、天霧の首に腕を回す。
引き寄せた耳元で続ける。
「俺だって、お前は俺のものだって思いてぇ。この体に、教えてくれよ」
数瞬の後、ぐっと体を押し戻されるが、頬に天霧の手が添えられる。
「土方、その言葉、後悔しないでください」
「男に二言はねぇよ、後悔しない為に今抱かれるんだろ」
その言葉を言い終わった直後、唇を塞がれる。
吸って、舐めて、咬んで、絡めて、呼吸すら難しいほどに口内を蹂躙していく。
足の爪先から頭のてっぺんまで、ぞくぞくと快感が広がっていく。
この体から怒りや増悪も貪られたら、最後には何が残るのか。
それを知るのが少しだけ怖く、楽しみでもある。
*終わり!
◆武田さん
武田さん、らくがき。
髪型よくわからん。
2018/03/19(Mon) 04:33
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◆伊東←武田みたいな
※伊東×武田
菓子をいただいたので、一緒にお茶でも如何ですか。
そう声をかけてきた彼に、返答に困ったが、既に茶器の乗った盆を手にしているのを見ては、断り兼ねた。
部屋に入れると、嬉しそうに笑みを溢すので、余計に困る。
彼、武田君は悪い人間ではないと思うが、親しくして益のある人間でもない。
私が新選組に入ったことで、彼はここでの立場が危うくなっている。だから、私に寄ってくるのだろうし、それに気付いている三郎にも煙たがられている。
そんな事を考えながら彼を見ていると、薄桃色の懐紙を開いて、どうぞと差し出してくる。
「あら、きんつばね」
現れた菓子が予想外で、つい声が跳ねる。
砂糖は高く、つまりは砂糖を使う菓子は高いのだ。
お好きですか?と問う声に、嫌いではないわ、と返す。
良かった、そう口元を綻ばせる彼に、存外可愛らしい笑みだと思った。
己のその思考に驚いて、軽く首を振る。
「伊東さん?どうかしましたか?」
「なんでもないわ、せっかくですから、いただきますわ」
懐紙の上にちょこんと乗ったきんつばは二つ。
添えられている黒文字を取り、一つを食べやすい大きさにしようと、真ん中から二つに切り分ける。
小さくしたきんつばを口へと運ぶと、粒餡のほろりとした、体からふっと力が抜ける優しい甘さが口の中に広がる。
口の中から餡が消えて、お茶へと手を伸ばす。温かい湯飲みに唇をつけ一口飲む。程好い温度と濃さ。
チラリと武田君を見ると、そわそわと私を伺っている。
「美味しいわ、きんつばもお茶も」
そう告げると、ほっとしたように息を吐いた。彼の欲しい言葉だったようだ。
「あなたは食べないのかしら?」
一緒に、と言っておきながら手をつける様子のない彼にそう聞くと首をふる。
「甘いものは苦手?」
「いえ、違いますが、そのきんつばは伊東さんにと買ってきたので」
いただいた、と言っていた気がする。…私の為にわざわざ買ってきたのか、安くはない菓子を。
私が甘いものが嫌いだったら、どうしたのだろう。
「…何か、見返りが欲しいのかしら?」
ちょっとした意地悪のつもりで聞いてみた。新選組内で居場所が不安定で、土方らにも煙たがられている彼が私に近づいてくる理由なんて、どうせ己の地位の確約が欲しいとかそういう事を頼みたいのだろう。
まぁ、きんつば程度ではそんな見返りはやれないのだが。
だが、武田君は慌てた様子で首を振る。
「そんな、見返りなんて、私はただ伊東さんと」
叫ぶような勢いで身を私の方へと伸ばしつつ言い、その勢いに驚く私に気づいたのか、座り直してから俯き「話したかっただけです」と小さく答えた。
これは、こんな反応は予想外だ。
どうしたものか、と。やや気まずい沈黙に彼と同じように視線を下げる。
目に入ったきんつばに、自然手を伸ばす。
なぜ、そうしたのか自分でも分からない。
気づいた時には、きんつばを唇ではさんで、飛び出ている部分を武田君の唇へと宛てていた。
間近で武田君の瞳が驚きで大きくなるのを見る。
瞳の中に愉快そうな目をした己がいる。
面白がっているつもりはないのだけれど。
物言いたげに僅かに開いた唇に、押し込むようにきんつばを入れる。
掠めた唇に彼の微弱な震えが伝わってきた。
体を離して、座り直し湯飲みを手にする。
お茶はもう冷たくなっている。
「伊東さん」
食べ終えた武田君が、声をかけてきた。
あぁ、今の行動の理由を聞かれるのだろうか、それは困る。
私だって知らないのだ。
「お味はどうだったかしら?」
努めて平静を装い、そう言葉にする。
武田君は少し考えるように俯いて、顔を上げると真面目な眼差しで答えた。
「味なんて、分かりませんでした。ですので、もう一口良いですか?」
一瞬、きんつばの事だと思ったのだ。
返事をする間などなかった。
触れてきた唇に、ゴトリと落とした湯飲みの音がひどく遠くから聞こえてきた。
彼の熱い舌が口内にそろりと入ってくる。
甘い、餡の味がまだ残っているそれ。
「ふっ…」
己の口から息が漏れ、そうして、始まり同様唐突に、口付けが終わる。
武田君がグイッと私の肩を掴み荒々しく引き離したのだ。なんだその扱いは、口付けてきたのはそちらではないか、やや腹が立ち武田君を見上げる。
真っ赤な顔で、震えている。
呼び掛けようと、「た」まで声に出した。
「すみません、わ、私はこれで失礼します!」
武田君は立ち上がり、私の返事など待たず、脱兎の如く部屋から出ていってしまった。
いまの表情は、あの少し泣き出しそうな目は、冗談や嫌悪には見えない。
ふうっと息を吐いて、視線を下に、きんつばに向ける。
「困ったわ」
食べねば勿体ないと思うが、いま口にしては先ほどの口付けを難なく思い出すだろう、困るのは、それが嫌ではないと考えていることだ。
けれど、瞬く間の口付けだったので、次は私からもう一口お願いしようかしら、そう思いつつ残ったきんつばを口の中に放り込んだ。
※おしまい。
リハビリ的な。
◆なんかこういきなり萌えて…
※伊東×武田
唇に歯が立てられた。
痛みはなかったが、思わぬ出来事に驚いて開いた口に彼の舌が伸びてきた。
熱を含んだ彼の吐息が唇に触れる。
何故口付けられているのか、彼の行動が唐突に過ぎてどうしたら良いのか分からない。
これはもしや嫌がらせだろうか。
彼をしつこく追い回しすぎた、私への。
伊東さんが私を快く思っていないことは、少し話しただけで悟ったし、同志の者を集めての講話会のようなものにも呼ばれない、その上この数日避けられていた。
それとも、これは私を嘲笑っているのだろうか。
新選組において、私の居場所が無くなりつつあり、焦っている私を。
どちらでも良い気がした。触れてくる舌の熱さに、私の頭の中は容易く溶けていく。
これが嫌がらせだとして、嫌がらない私に伊東さんはどう反応するだろう。
下唇を吸い、伊東さんの唇が離れていこうとするのを、私は彼の頬を両手で挟み追う。
僅かに戸惑う素振りが伺えたが、彼は私からの口付けを受けた。
口付けを終えて、私は伊東さんを見上げる。
座っていた私に伊東さんが上から口付けてきたから自然と見上げるかたちになるのだが、私のほうが僅かに背が高いので普段とは違う形で見る伊東さんは、常とは性質の異なる笑みを浮かべているように見える。
困ったわ、愉しげに笑みを象る唇が呟くが少しも困っているようには見えない。
私は口付けの意図を問おうと口を開いたものの、唇に触れてきた吐息に言葉を飲み込んだ。
終わる…。
◆就活生武田さん続き!
*大学生武三続き
驚き過ぎて言葉が出ない。
沈黙する俺に構わず、武田は話しかけてくる。
「三木君、せっかく来てくれて嬉しいんだけど、私はこれから出るんだけど」
三木君はどうする?と問う武田に、はっと我に返る。
別に見惚れていたわけじゃない、かっこいいとか、全然思っていない。
「どこ行くんだよ、そんな格好で」
武田はスーツ姿だった。
きっちり一番上まで釦を閉め、ネクタイをしている。
髪も、いつもは顔の左半分を隠しそうな前髪が、綺麗に上げられている。
整えられた髪型とスーツで、こんなにも見違えるものかと驚愕する。
いや、わかっている。
本当は、こいつは格好いいのだ、見た目は。ただ、見た目に気を使わない性格なのか、普段は微妙なセンスの服装と、とりあえず軽く整えてはいます的な髪だから、忘れがちなんだ。
スーツ効果…やばいな。
滅多に見れなさそうな格好だから、見ていたいけど、直視し続けるのは何故か恥ずかしい。
「三木君?どうしたの?私は、あの例の書類選考が通ってしまったから、今日面接なんだよ」
黙ったままの俺を心配そうに見ながら、武田は心底嫌そうに溜め息を吐く。
「俺も行く」
咄嗟に口から出た言葉に、自分でも驚いた。
武田も、困ったように俺を見てくる。
「えっと、…なんで?」
「別にいいだろ、暇だし。お前が面接してる間、適当に近くの店とか見てるし。家で待ってるよりは、暇潰し出来るだろ」
「でも、ビル街だから、三木君が興味持つようなお店あったかな…?」
「俺が一緒だと嫌なのかよ?」
首を傾げる武田に、言い返す。
「そんなことないよ。ただ、どうしたのかな?って思ったんだけど」
武田の疑問はもっともだ。
普段の俺なら、ついて行くなんて言い出さないだろう、自分でもそう思うんだから、武田がそう思う事に不思議はない。
「…心配だからだよ」
小さく返した俺に、武田はいよいよ困った顔をする。
「三木君、私は子供じゃないから、流石に迷子になったりはしないし、一応先方に迷惑をかけるような真似はしないよ?」
そんな心配してねぇよ!!
お前が迷子になったら盛大に笑ってやるっーの!
内心で思うが、このままだと話が進まない。
俺は、武田から目を逸らして答える。
「女に、ナンパされっかもしんねぇだろ」
「誰が?」
きょとんとした表情で返す武田に苛々してくる。
「お前がだよ、馬鹿!」
「えっ…それは、ないんじゃないかな?」
「わかんねぇだろ、そんなの。今のお前……格好いい、し」
次第に小さくなっていく自分の声と、言っている事の恥ずかしさに、俯いてしまう。
なんだこれ、恥ずかしい…!
後悔先に立たず、言った言葉は消せない。
一瞬の沈黙の後。
「三木君!!」
ガバッと武田が抱き付いてきた。
その上頭に頬擦りされる。
「おい、なんだよ止めろ!」
「だって三木君、可愛いんだもん」
「だもん、じゃねぇよ!離せよ」
「三木君が誰にも見せたくないなら、私面接キャンセルするよ」
「ば、馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ!ちゃんと行けよ」
えーっと駄々をこねる武田を、体の間に腕を入れて押し退ける。
誰にも見せたくないわけじゃない、ただ、見せびらかす趣味はないだけだ。
「私、三木君に永久就職出来るから、何時でも言って下さい」
「さらっと怖いこと言うなよ」
永久就職って、つまりあれだろ、結婚ってことだろ?
「とにかくだ!俺はついてくから。ほら、さっさと出るぞ、遅刻したら心象最悪だぞ」
無理矢理話をまとめ、武田の背を押して外へと出た。
面接を受ける会社に向かう道中。
心配していた事は起こらなかったが、すれ違う女の何人かは武田を見ていた…気がする。
*まだ続く!
◆武田さんだって就活するよ、多分
*大学生武三
武田の部屋に来て数時間。
珍しく、放っておかれている。
武田が履歴書を書いているからだ。
就活なんて面倒臭いと溢していて、じゃあなんで履歴書書いてんだと聞いたら、世話になった教授の薦めでとある会社を受けないといけなくなったらしい。
正直、こいつが会社員なんてやれるのかと思うけど、邪魔はせずに俺は雑誌を見ていた。
不意に武田が呻いて、もう嫌だ、と呟く。
「履歴書って、なんでこんな項目を設けているんだろう」
履歴書に文句を言い出した武田に笑い、側に寄る。
「なんか悩んでんのか?」
「自分の短所なんて、分からないんだけど」
だいたいの履歴書には短所・長所の項目がある。
ここで悩む奴は多いだろう。
「お前、短所だらけだもんな、何書くか悩むよな」
からかうつもりで口にするが、武田から返事はなく見れば悲しそうに俺を見つめている。
「三木君…傷つきました」
「悪い…」
素直に言われてしまうと、謝るしかない。
「じゃあ聞くけど、私の短所ってどこ?」
拗ねた様子でテーブルをバシバシ叩き聞いてくる。
俺は少し考えて。
「自分より下の奴には横柄な態度を取るだろ、お前。あと、利の無い付き合いはしない、……短所っーか、悪い部分って言った方が分かりやすいな」
短所というと、一言で言い表せないといけない気がする。
武田は、今言ったような性格だから、友人はほぼ皆無だ。
俺が知っている範囲での武田の友人は、一人しかいない。
「付き合っていて何のメリットも無い相手と、付き合うメリットがある?」
本当に理解出来ないと言わんばかりに、首を傾げる武田に笑う。
言葉だけ聞けば酷く冷たい奴だと思うが、武田の言うメリットは割りと幅広い。
武田の唯一と言える友人は、話していて楽しい、というメリットを得られるから付き合っているのだと言う。
最初、このメリットを金銭的なものだと思っていた俺は、一度武田に聞いたことがある。
俺と付き合っていてお前に何のメリットがあるんだ、と。
返ってきた答えは、三木君が側にいるだけで幸せになるこれ以上のメリットはない、だ。
それは恋人として付き合う前に言われた言葉で、その時は正直(なに言ってんだこいつ)くらいにしか思わなかったが、いま思い出すと嬉しい…ではある。
じゃあ俺がお前と付き合うメリットは何だ、と聞いたら「金銭的な援助も出来るけどそれは三木君が望んでないでしょう、だからそれは三木君が考えて欲しい。勿論私に出来る事があるなら何でもするから、遠慮なく言って欲しい」と、真面目に言われたのだ。
まぁ、一緒に居て楽しくない相手と付き合うのは、誰だって嫌だろう。
武田はそれがはっきりし過ぎなのだ。自分にとって不要だと判断した相手には、本当に容赦がない。
「書類選考で落ちたら良いな」
そうぼやく武田に、真面目に考えろよ、と返した。
数日後。
どうやら無事に(と言ってもいいのか)、書類選考を通過した武田は、面接を受ける事になった。
その日、講義もバイトも無く、一日武田の部屋で暇を潰そうと思っていて、そして部屋に入った俺は「いらっしゃい」と迎えた武田の姿に息をのんだ。
*続く!
長くなりそうなので、わけます。
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