桜下恋想
□君が叶える願い事
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*SSL/七夕
なんの騒ぎだ、と芹沢は薄桜学園に着いて溜め息を吐いた。
学舎に沿って笹が何本も立てられている。
飾り付けられ、短冊も掛かっているのを見るに、今日の七夕の為のものなのだろう。
近藤の好みそうな事だ、と嘲笑する。
七夕など、下らない、と芹沢は呆れながら校舎に入り、生徒会室へと向かって歩を進めつつ、あの者も短冊に願い事など書くのだろうかと疑問が湧く。
星に願いを託すなど、そんな一面があれば、それはそれで驚くが。
生徒会室に着き、「風間居るか」とノックも無しに芹沢はドアを開ける。
風間はソファに腰掛け何やら考え込んでいる様子で、芹沢をチラリと見ると視線は再び机の上に戻る。
「何をしている?」
正面のソファに腰を下ろし芹沢が見ると、机の上には短冊が何枚か乗っている。
「表の、笹を見ただろう?近藤が1クラスに一本づつ当てていて……」
風間はペンを手に悩んでいる様子のまま芹沢の質問に答える。
「お前も願い事を書いてるのか」
「いや、書く事が無くて悩んでいるのだ。強制ではないから書かなくても良いのだが、せっかくだからな」
と風間は顔を上げる。
「そうだ、芹沢。貴様も書いてはどうだ?」
そう言って、芹沢の前に短冊とペンを差し出してくる風間に、芹沢は眉を寄せた。
「星に願う事など無い」
「まぁ、貴様はそうだろうな……この際、願い事で無くても良いのではないか?こう……決意表明みたいなものでも」
風間は芹沢の前に短冊とペンを置くと、また己の短冊を見ている。
芹沢は溜め息を一つ、仕方なくペンを取り上げる。
全く、余計なものに邪魔をされたと内心で思う。
恋人である風間とまともに会うのは二ヶ月ぶりだ。互いに忙しいので、なかなか会えずにいた。
お互い、メールや電話を頻繁にする質ではない。
風間はようやく書く事が決まったのか、短冊にペンを走らせ、「うむ」と満足そうに笑み頷いている。
存外子供っぽい笑顔に、芹沢の口元も弛む。
芹沢もようやく短冊に書き付けるのを見て、風間はソファから腰を上げる。
「帰りながら、笹に掛けよう。今帰り仕度をするから待て」
「あぁ」
手早く仕度を終えた風間と芹沢は、生徒会室から出ると、並んで歩き出す。
「芹沢、貴様は短冊に何と書いたんだ?」
やはり恋人の願い事というのは気になるもので、風間は隣の芹沢を微かに見上げて問う。
それに芹沢は小さく笑うと、風間の方へ己の短冊を差し出した。
風間はそれを受け取り、書かれている事を読んで、みるみる顔を赤くしていく。
「お、い芹沢……貴様、本気でこれを笹に掛けるつもりか?」
「いや、それはお前が持っていろ。星が叶えるより、お前が叶えるほうが早いだろう」
「……仕方ないから、貰っておいてやろう」
風間はボソボソと言いながらも嬉しそうにその短冊を鞄へとしまう。
「それで、風間、お前は短冊に何と書いたんだ」
「あ、……まぁ貴様のは見てしまったからな……」
気まずそうにする風間だが、自分だけ相手のを知っているのもフェアではないと思ったのか、ポケットから短冊を出すとそっと芹沢に渡す。
風間の短冊を見て、芹沢はククッと笑いを溢す。
「笑うな!……だから貴様には見せたくなかったのだ」
「これは俺が貰おう。どうせならば、紙に書くのでは無く直接聞きたいものだな」
風間の短冊をポケットにしまい、芹沢は風間の顔を覗き込む。
「……貴様こそ、直接言ったらどうだ」
笑われた事が気にくわないのか拗ねた調子で返す風間に、芹沢はその耳元に顔を寄せて、小さく短冊に認めた事を囁いた。
終
up/2014.07.08
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