桜下恋想2

□勝敗
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「風間、聞いているのですか?」

薩摩の者と直接話すのを厭い、私を間に立たせているにも関わらず、薩摩からの言伝を伝えている最中、此方に一切視線を寄越さず外ばかり眺めている。
少しの反応も無い為、流石に聞いているのか、怪しむ。

「斯様に月が美しい夜に、無粋な事を聞かせるな」

漸く、ゆるりと視線を向けてくる。

「天霧」

耳に慣れた低い声が名を呼ぶ。
その瞳と声音に宿るものの正体に、気づかないわけではない。
が、ふと興味が湧く。
このまま私が部屋を出れば、どうするのだろうか。

「聞いていたのなら、良いのです。では、私はこれで失礼します」

そう軽く頭を下げると、微かに眉を寄せ、「おい」と短く呼び止める。

「何でしょう」

知らぬふりをしてみせると、沈黙が落ちる。
目を細め、怪訝そうにしている。
気づいてないわけではなかろう、そう瞳が問うのもかわし笑みを返す。

「用が無いのでしたら、私は休ませて頂きます」

再度頭を下げ、背を向ける。
さて、どうするだろう。
襖に手をかけたところで、クッと腕に重み。

「九寿」

小さく聞こえたそれに、驚き振り返る。

「かざ……」

名を呼ぶより早く、強い力で引き寄せられ、唇を塞いでくる。
風間の舌が入り込み、己の舌に擦り合わせてくるのに応えれば、気を良くしたのか。
更に体を密着させ、風間の膝が自身を刺激してくる。
思わぬ風間の行動に、容易く欲を引き出されてしまう。

「は……ん、ぁっ……」

唇の隙間から甘く上がる声が、耳を擽る。
離れようとする唇を追うが、体を押され、距離を取られる。

「ご苦労だったな、天霧。休んで良いぞ」

するりと腕の中から抜け出し、背を向けてくる。
この状態で休めるわけがない。
元の位置に戻る風間の手を掴む。

「何だ?」

「……私の、負けです」

先の風間の誘いに応じなかった。
これは、その仕返しだろう。
勝ち誇ったように口端を上げ、笑みを溢す。

「ふん…。それにしても、貴様にも可愛げというものがあるのだな」

「何の事です」

引き寄せると、大人しく腕の中に戻ってくる。
見上げてきた紅が、面白そうに見つめてくる。

「先程、名を呼んだ時、動揺したな」

「ああ……随分と、久しぶりでしたので」

『九寿』という名を呼ばれる事は、久しくなかった。
子供の頃はそう呼ばれていたが、風間が頭領となり、いつの間にか『天霧』に変わっていた。
恋仲となった今でも、それが変わったりはしなかった。
だが、それは己も同様。
私も風間の事を、もう長いこと『千景』と呼んでいない事に気づく。

「…それで、貴様は俺を何と呼ぶのだ?」

試すような口調。
僅かに期待のこもった瞳は、愛らしくせがんでくる。

「千景」

愛しい者の大切な名を唇に乗せ、満足そうに笑みを溢す唇に唇を重ねた。











UP*2011.03.01



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