桜下恋想2

□些細な
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鬼の住む里は山深くにあり、冬は人里より一層冷えるが。
初雪が降ったからと、平助に誘われるまま、風間と平助は散歩へと出た。

「明日には、積もってるかな」

傘をさして隣を歩く風間に、平助は声を掛ける。
傘は、自然と背の高い風間が持っている。

「このまま降れば、積もるだろうな」

「積もったらさ、雪合戦しようぜ、千景!」

「雪合戦か……まぁ、たまにはそんな遊びも悪くはないな」

楽しそうな平助の声に、風間もふわりと微笑を浮かべる。
そんな風間を平助は見上げ、そしてぴたりと足を止めてしまう。
前を向いていた風間は数歩先を行ってしまい、慌てて振り返る。

「平助、どうした?」

立ち止まる平助は何故か気落ちした様子で、そんな平助に、首を傾げ風間は声を掛ける。

「いや……なんつーか、さ…その」

言い難そうに言葉を濁し俯く平助に、風間は小さく息を吐く。

「平助」

肩に手を置き、優しく名を呼ぶ。
それに平助が顔を上げれば、風間の唇が平助の頬に触れる。

「っ…千景っ!!」

「どうだ、元気が出たか?……何か思う事があるのなら、さっさと話せ」

顔を赤くする平助の頭を風間が撫で、平助は。

「っ……千景の馬鹿!!」

「なっ…馬鹿とは何だ、誰が馬鹿だ」

「だって、ずりぃじゃん、千景。俺だって、こう……千景を超すまでとは言わねぇーけど、せめて同じくらいあれば、俺だって出来るのに…」

「待て平助、言ってる事の半分も俺には理解出来ん」

「だから…」

少しばかり涙目になってすらいる平助は再び俯き、ぼそりと溢す。

「背の高さの話だよ」

「…背の高さって……今更だろう?何をそんなに」

「だからっ!今、千景に口付けしたいって思ったけど、ほっぺにするのも、千景に言って止まってもらって、ちょっと屈んでもらわなきゃじゃん。
同じくらいあったら、歩いてても不意打ちで出来るのに!」

一気に言い切った平助は、耳まで真っ赤である。
一瞬虚を突かれたように目を瞬いた風間は、次には満面の笑みで平助を抱き寄せる。

「貴様は、可愛い事を言う」

「だって、悔しいだろ。…俺だって、さっきの千景みたいに不意打ちで口付けとかしたい…」

「しているだろう」

「それは千景が座ってる時じゃん。立ってる時にしたいの、俺は」

「我が儘だな」

「もう千景はずっと座ってたら良いのに」

「無茶を言うな」

呆れた口調で返す風間だが、腕の中にいる平助の髪を弄るその仕草は、愛おしそうである。

「すぐ子供扱いするしさ……」

不服そうに呟く平助に、風間は眉根を寄せる。

「聞き捨てならんな。俺は貴様を子供扱いしたことなどない。ちゃんと一人の男として見ているが?」

僅かに身を離し、平助の顔を覗き込む風間を平助は見上げる。
まだ不満気である。

「身長の差など、些細な事ではないか。俺は今のままの平助で十分だ」

「千景」

「それに……好きでなければ、身を預けたりしない」

微かに頬を染めて続けられた言葉。
一瞬何の事かと首を傾げる平助だったが、思い至ると、平助までも赤面してしまう。
おそらく情交の際の事を言ったのだろう。

「まぁ……そう…そうだよな」

「ん……分かったら、もう屋敷に戻るぞ。大分冷えてきたからな」

照れているのだろう。
風間は顔を背け、それでも確り平助の手を握っている。

そんな様が可愛いくて、
やっぱりこんな時に口付け出来たら嬉しいな
と平助は思いながらも、先程よりは残念に感じなく、そっと笑みを浮かべた。




ただ、それから後は、座っている風間を平助が襲うという事が、以前より頻繁になったらしい。









UP/2011.01.04



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