桜下恋想2

□好きを繰り返し
1ページ/1ページ




「風間君の、角が見てみたい」

そう唐突に言ってきた近藤に、動揺を隠せない。

「つ、角…か?」

「うむ。以前、風間君にも角があると、教えてくれただろう?」

それは、恋仲になる前の話で、よくそんな何ヶ月も前の話を覚えているものだ、と感心する。

「……何故、角なんて、急に見たいなど」

「ん?好いた相手の事は、些細な事でも知りたいと思うだろう」

笑みを湛え言われては、返せる言葉は無い。
己とて、近藤の事なら、些細な事でも知りたいと思う。
近藤の好きな物や事、己と出会う前はどう過ごし、何を感じていたのか。

鬼の姿など、そう易々と人間に見せたい物ではない。
近藤を見ると、期待の籠った眼差しで此方を見つめている。

鬼の姿になると、変わるのは角が出てくるだけではなく、髪と瞳の色も変わる。
鬼である事は、己の誇りであるし、鬼の姿が嫌なわけではない。
だが、その変化した姿は、異形と呼ぶに相応しい。
それを、近藤に見せる……。

俺は、柔らかい微笑を浮かべる近藤を見つめ。

一気に混乱した。

「うっ……」

「風間君!?ど、どうしたのだね?わ、私は何か、無神経な事を言ってしまったかい?」

慌てる近藤の声。
俺の頬を伝う冷たい感触に、ああ、泣いているのか、と理解する。
胸の内にある感情は、これは、恐怖だ。
俺は人では無いのだと。
異形の者なのだと。
それを近藤に見せ、嫌われてしまったら……
もう傍に居れなくなったら、と…そう思うと、怖い。

怖い?この俺が?
涙を溢す程に?
らしくないと思うものの、涙は止まらず、どうしたら良いか分からない。

「風間君?」

「あ……駄目、だ……お前に、鬼の姿の俺を、見せる事は出来ない」

困った表情の近藤に、なんとかそれだけ言い、泣き顔を晒しているのが恥ずかしく、俯いてしまう。

「風間君」

名を呼ばれても、顔を上げれないでいると。
ふわりと。
抱き寄せられる。
俺の頭を胸に当て、頭と背を撫でてくる。

「っ……近藤っ」

これではまるっきり子供扱いではないかと、文句の一つも言いたい所だが、悔しい事に、心地良い。

「風間君、私は無理強いするつもりはないよ。
何を考えたのかは、分からぬが……泣く事はない。
私は、君が好きだよ」

優しい口調と手つきに、何故か更に涙が溢れる。

「俺も」

「ん?」

「俺も、好き、だ」

「うん」

心ごと、柔らかく包み込む声音に、俺はそっと近藤の背に腕を回す。





腕の中で、気持ち良さそうに眠る風間君の寝顔に、ほっと息をつく。
突然泣き出され、驚いた。
なんとか理由を聞き出した所。
「姿が変わる異形だと、確認させてしまっては、嫌われてしまうかもしれない」
そう、途切れ途切れに答えてくれた。
そんな事で嫌うわけが無いと必死で宥め、好きだと、傍に居ると繰り返せば、又泣かせてしまい。
そうしている内に、どうやら泣き疲れてしまったらしい。

赤くなった目元。
泣かせたいわけでは、勿論無い。
しかし…なんとも嬉しい理由で泣いてくれる。
愛しくて仕方がない。

恋仲になる前は、笑顔など見せてくれなかったが。
今では、笑みは勿論、こうして泣く所も、寝顔も見せてくれる。

まだまだ、己の知らない風間君の姿がある。
鬼の姿は見れそうになく、少し残念ではあるものの。

鬼だとか、異形だとか、関係ないのだ。
風間君自身に惹かれているのだから。
何も不安に思う事は無いのだと、目が覚めたら伝えよう。


頬に口付けを落とし、「好きだ、風間君」と呟く。
君が不安に思うなら、何度でも、何時でも、言葉で態度で、伝えよう。

君を愛していると。







UP/10.08.15



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ