桜下恋想2

□腕の中
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*近風/笑顔シリーズ番外



夜半。
新選組の屯所に忍び込むのは、俺にとっては容易い事だが、今夜の目的は女鬼などでは、勿論無い。

先に下調べもしていたので、迷わず目的の部屋の前に着く。
明かりは点いておらず、眠っているのだろうと思われたが、俺は襖に手をかけた。

中には、布団に入り眠っている近藤の姿。
傍らに座り、その寝顔を眺めていると、愛しさが湧いてくる。
心地良さそうな寝顔に、つい口元が綻んでしまうが、今夜此処に来たのは、寝顔を見る為ではないと思い出す。

近藤と恋仲になり、一月と少し。
接吻は会う度するが、まだその先には進んでいない。
なかなか手を出してこない近藤がもどかしく、かといって、己から誘うのも…気恥ずかしい。
だいたい、昼に会うからいけないのだ。
こいつの事だ、昼間から行為に及ぼう等思わぬのだろう。

だからこうして夜這いに来たのだが。
初めて見る近藤の寝顔に、起こすのも躊躇われる。

「近藤…」

そっと声をかけてみるも、起きる気配は無い。
……どうしたものか。
よくよく考えれば、こいつは新選組の局長だ。
色々忙しく、疲れているかもしれないというのに、わざわざ寝ているのを起こす必要は無いだろう。

近藤の都合も考えず、押し掛けて来た事が今更恥ずかしく思えてきて。
今夜は、近藤の寝顔を見れただけ良いとするか。

ただ、矢張そのまま帰るのは嫌で、俺は身を屈め、近藤の唇に己のを重ねる。

「…ん」

重ねた唇から小さく声が漏れ、慌てて身を離すと、近藤がゆっくりと目を開く。
結局、起こしてしまった。

「…風間、君?」

寝惚け眼で、俺の姿を認めた近藤が微笑む。

「どうしたんだね?こんな夜更けに」

半身を起こして聞かれ、返答に困る。
夜這いに、とは言い難い。

「別に…お前に会いに来ただけだ」

俯いて、答える。
そう、俯いてしまった為、次の瞬間、何が起こったのかすぐには分からなかった。

ぐいっと、腕を引かれたと思ったら、俺の体は近藤の体の上に倒れ込んで乗っていて。
いつの間に横になっていたんだとか、思ったものの…
近藤に強く抱き締められて、鼓動が煩くて。

「こ、近藤?」

ただ名前を呼ぶのが精一杯だ。
少しばかり上擦った声が嫌だ。

「せっかく来てくれたのだ、風間君も此処で眠って行くと良い」

トクトクと鼓動が速まる。
ひとまず、近藤の上から横に体をずらす。

「寝るって…このままか?」

少し上にある近藤の顔を見上げ問う。

「ん?嫌かな?」

「…嫌では無いが、その…」

この状況で、本当に眠るつもりなのか。
更に俺を抱き寄せた近藤は、俺の髪に顔を埋めるようにして、小さく笑う。

「な、なんだ?」

「いや、風間君が腕の中に居ると思うと、嬉しくてな」

一気に顔が熱くなって、近藤の胸に顔を隠すようにして、俺は、「ああ」だか「うん」だか分からぬ不明瞭な返事をする。

ほんの数秒、部屋が静かになり。
「近藤?」と声をかけるが、返事はなく。変わりに規則正しい呼吸音。
そっと見上げると、その瞼は閉じていて。
俺はため息を漏らす。
残念なような、安心したような、ひどく複雑な気分だ。

だが、まぁ。
一緒に寝るという事も初めての事なのだ。
嬉しい事は確かで。

俺は近藤の胸に顔を寄せ、「好きだ」と呟いてから目を閉じた。










UP*10.06.16



夜這い失敗談。
ずっと書きたいと思っていて…。
頑張れ風間!
近藤さんは絶対寝ぼけてる。



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