桜下恋想

□瞳に宿る想い
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暗く陰った瞳が気になった。
最初は確か、そんな些細な事だ。

何かと兄貴に反対してくる邪魔なやつを黙らせてやろうと、乱暴に組敷いたのは、何時だったか。
一度で済む筈の事なのに、それから何故か足を運んでしまうようになった。


止めてください、掠れた声が繰り返す。
眼鏡という余計な物に遮られてない瞳が、睨んでくる。
眼鏡を取ったら、存外綺麗な面立ちをしていて、最初の時は少し見惚れた。

体の内に沈めた指で中を掻き回すと、ひくりと身を震わせて、艶やかな声を落とすくせに、止めてくださいなんて、説得力がない。
また、止めてくださいと言葉が漏れて、苛立つ。

「お前、それしか言えねぇのか?」

乱暴にするなら、いくらでもそう出来る。
じっくり解してやる必要なんて、ないのだ。
少しも解さないままでは、己のも挿れられないから多少は慣らすが。

「さっさと終わらせて、出て行って下さい」

乱れた呼吸で山南は言う。
なんだよ、それ。
逃げないくせに。
拒まないくせに。
苛立ちが増して、俺は指を引き抜くと、硬く張った自身を山南の後口に宛がう。
山南が息を詰めるのが分かった。

「あっ…あ、ぁっ…」

一気に奥まで押し込むように突き上げれば、普段の山南からは考えられない声が上がる。
艶やかな、耳に心地良い声だ。

「嫌なら、もっと抵抗するなり、土方とかに言えば良いだろ」

それはしないだろう。
男が、同じ男に体を良いように扱われているなんて、誇り高そうなこいつが、言うわけが無い。

山南は返事をしない。
舌打ちして、ふと視線を上げると山南の眼鏡が目についた。
山南は毎回、俺が横にさせた後、自ら眼鏡を外して丁寧に枕元に置く。
その眼鏡に手を伸ばして持ち上げ、自分の目の前に持ってくる。
深い意味は無い。
普段、山南はどんな風に物を見ているのか、少し気になっただけだ。

「うゎっ…」

思わず声が漏れた。
視界がぐにゃりと歪み、目眩がしそうだ。

「何してるんですか?」

俺の下の山南が、訝しげな声を出す。
挿れたまま動かない俺が気になったのか。

「お前の眼鏡見てた。よくこんなの付けてられるな」

軽い調子で言えば、山南は溜め息を吐く。

「目の良い方には分かりませんよ。私はそれが無いと全てがぼやけて見えます。顔を近付ければ、うっすら分かりますが」

へぇ、と答えて、気付く。

「なんだよ、じゃあお前、今俺の事見えてねぇのかよ」

「何か問題が?」

「…いや、ねぇよ」

短く答えて、俺は眼鏡を元の位置に戻して、動きを再開する。
熱い内壁が、絡み付く。
山南の上げる声は益々色っぽく、汗で湿った肌は妖艶な光沢を持つ。


見えてなくて良い。
目は口より物を言う、と言うではないか。
こいつを抱いてる時の俺の目がどんな目をしているかなんて、俺自身も知らないが、口にしない事を知られるのは嫌だ。
そう思うけど、少しは気付いて欲しい。

身勝手だ、俺は。
今更、どの面下げて、こいつに…。


俺の顔が見えないと言うこいつは、今誰に抱かれているつもりなんだ。
敷布を握る山南の手を取り、指を絡めて繋ぐ。

見えないなら、視覚以外の全てで俺を覚えれば良い。


そんな事を思い、勝手に繋いだ手に力を込めた。









up/2016.06.03

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