桜下恋想

□恋を拾い
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*ブログからの移行





夜から降りだした雨に、ふと思い出したことがあり、ソファの上、隣に座る恋人・風間を見る。
俺の視線に気づいた風間は、読んでいる本から視線を上げ、「どうした?」と見つめてくる。

「お前と、出会った時の事思い出してた」







仕事を終えて、自宅への帰路を足早に歩く。
電車に乗ってた時から雨が降り出し、傘を持ってないから止んでくれ!と心中で願ったが、電車を降りた時には土砂降りになっていた。

ほとんど走るようにして帰る最中に、それを見つけた。

道端で、丸くなっている人がいる。
俺は、困っている人を放っておけない質らしい。
自分ではそうは思わないが、付き合いの長い友人が言うので、そうなのだろう。

その時も、俺はすぐその人物の元へ近寄った。
酔っ払いだとしても、こんな雨の中、放っておけない。
近寄って見ると、そいつはでかいバックを頭の下にして、寝ている。
顔を見てみると、だいぶ若い。俺と同じくらいだと思う。
暗くてよく分からないが、髪は金髪に見える。
ますます酔っ払いの線が強まるが、俺は男の肩に手を置いて、体を揺らしてみる。

「おい、お前、起きろって」

当然、名前は知らないので、しつこく「おい」と呼びかけ体を揺らし続けていると、男の目がようやく開く。

ぼんやりとした目で俺を見上げてくる。

「おい、お前大丈夫か?こんな雨の中、しかも道端で横になってたら危ねぇぜ?」

すでに頭の中では酔っ払いと決めつけていた俺は、そう声をかける。
男は不思議そうに瞬き、数秒俺わ見つめ、俯く。

「何だ、大丈夫か?どっか具合悪りぃのか?」

俯けた顔を覗き込むようにした俺に、不意に男の腕が伸びてきた。

「っ……!」

首に腕を回され、抱きつかれていた。
驚きで固まり、言葉もない俺に、男は耳元で囁く。

「俺を、拾ってくれないか」



それから、とりあえず雨に濡れ続けているわけにもいかず、俺はその男を連れて自宅に帰った。
風間と名乗ったその男は、道すがら、家出してきたから行くところがない、と話してくれた。

二人、風呂に入り落ち着いてから、「一晩で良いから泊めてくれ」と訴えてくる風間を放っておけなくて、泊めた。
泊めて、次の日の夜には「部屋が見つかるまで」になった。

奇妙な同居は二ヶ月ばかり続き、俺が風間を好きだと気づいたのは風間がここを出て行くと言い出した時で、必死で口説いて引き留め、同居は同棲と名を変えた。







「永倉、貴様は人が良すぎる」

溜め息をつく風間に、苦笑が漏れる。

「けど、だからこそお前と会えたんだぜ」

「それはそうだが……まぁ、貴様の人の良さにつけ込んだ俺がいうのもおかしいが、もう少し気をつけろ」

「ん?心配すんなって。人間を拾ったのなんて、後にも先にもお前だけだよ」

風間の腰を抱き寄せて、唇を重ねる。



この腕の中に満ちる愛しさを、俺は雨の中で拾い上げたのだ。













ブログup/2011.04.11



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