桜下恋想記

□陽のあたる場所
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*ブログからの移行



鬼の里へ来て、早幾月。
天気の良い昼下がり。
原田は暖かくなった縁側に腰を下ろし、優しい眼差しで目の前の庭を見つめる。
視線の先、そこには風間の姿。
庭というより畑に近いそこに植えているのは薬草だそうで、売れば良い値がつくらしい。

それを聞いた時、原田は少し意外だったのだ。
鬼というのは、完全に人間とは関わりなく生活していると思っていて、実際里には畑が多く鬼は皆自給自足している様に見えた。
風間にそれを伝えると「我々鬼とて、服や住まいに金が必要な時はある」と至極全うなことを返された。

きらきらと、陽を浴びる風間の髪が煌めく。

「千景」

原田が声をかけると風間は体をびくりと震わせ、原田を振り返り睨み付ける。
どうも名で呼ばれることに慣れないようで、気恥ずかしいらしい。

「なんだ?」

原田の手招きに、素直に寄ってくる風間に、原田は腕を伸ばし風間の腰を抱き寄せる。

「原田?」

己の腹に顔を埋める原田に、少し困惑しながら、風間はその頭を撫でた。
深みのある紅い髪が、風間は気に入っている。
見た目に反して柔らかく手触りの良い髪を、さらさらと指で弄るのが好きだ。

「原田」

黙したままの原田に痺れを切らし、風間は再度名を呼んだ。
原田は顔を上げて、微笑む。

「良いなって、思ってよ」

「良い?なにがだ?」

「お前が何時も目の届く所に居ること、呼んだら来てくれること、こうして好きな時に抱きしめられること…暖かくて気持ち良いなって、思ったんだよ」

二人が出逢った頃は、平穏とは言えない時世だった。
その上、敵同士だった。
このように穏やかに過ごせるとは、お互い思っていなかった。

嬉しいと笑みを浮かべる原田に、風間も笑みを溢し、そっと身を屈めた。

触れて重なるいとおしさ。
この世は無常だと知っているからこそ、共に居る日々全てが欠けがえのない大切な日になる。


祝福されているような日溜まりの中、二人は優しい口付けを交わす。








ブログup/2012.12.05
再up/2016.02.14


ブログに載せていたのは基本短め。

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