恋紅酩酊記

□猫の恋(中編)
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六畳程の部屋に、風間は一人座し茶筅を回す。
静かな空間にその音は大きく、また、常より幾分荒っぽいその動作が風間の心境を表していた。


風間は、由緒ある茶道の家元の子として産まれた。
幼き頃より茶は風間の身近にあり、興味を示す前に作法やらを教え込まれた。

苦に思った事は無い。
自身の内側と向き合い、そして雑念を払う儀式めいた静けさ等は風間の気質に合った。

高校生になる頃に、この専用の離れの茶室を造って貰った。
以来、風間は一人で落ち着きたい時はこの茶室に籠り、誰に飲ませるわけでもない茶を点て、心中の様々な事を整理してきたのだ。


だが、この数日、いくら茶を点てても心は平安とは遠く、そればかりか、事の起こった現場である茶室にいるせいか。
風間の胸中は波立つだけだった。

脳裏に浮かんだ顔に、茶筅を回す手つきは更に荒くなり、碗から茶が跳ねる。
舌打ちと共に手を止め、風間は重い息を吐いた。


風間の心を乱しているのは、数日前の記憶。

風間はこの茶室で、男に抱かれた。
相手は芹沢鴨。

合意の上では無かった、と風間は言い聞かせる。
あんなものは、強姦だ。
訴えても良い程だ。

そう思うのだが、なかなかそれが出来ない。

日数が経ってしまって、証拠が無いから。
風間の会社は、芹沢の会社との取引で助かっている部分があるから。

風間は自身で納得のいく理由を探そうと、思考を巡らせる。

着物の袂から、そっと小さな紙切れを取り出す。
芹沢の名刺だ。
会社の名刺で、ただその裏の白紙のところに手書きで11桁の数字が並ぶ。
恐らく、芹沢自身のプライベートの携帯電話の番号だと思われる。

芹沢に抱かれたあの日。
目を覚ました時には、体は綺麗にされていて、芹沢の姿はなく。
その名刺が、空の茶碗の内に添えられていた。

連絡は、していない。

風間はその数字の羅列を指で撫でる。
芹沢は己からの連絡を待っているのだろうか。

風間が、芹沢から受けた事を誰にも打ち明けていないのは、結局どれだけ理由を探そうと、出る答えは一つだ。

以前から、茶会の度に姿を見かけていた芹沢に、惹かれていた。
直接言葉を交わしたのは、先日が初めてではあるが、会話しているだけでは何ら不快に感じるところは無かった。
どころか、短い会話の中で一層強く芹沢への興味が湧いた。
姿を見ているだけと、実際に接するのは違う。

芹沢のあまり良いとは言えない噂も、勿論知っている。

だが、風間千景一個人としては、芹沢の態度は悪い印象は無かった。

風間は子会社を多くもつ企業の社長子息だ。
故に、風間に近づいてくる大半の者が出世等の目的を持っている事が少なくない。

上辺だけの愛想と、媚びへつらう者を見てきた風間にとって、芹沢の自分勝手な振る舞いは新鮮で、好ましいと感じた。


あんな事をされる等、欠片も思っていなかった。

キスだけでなく、その先までも。

情事を思い出し、知らず顔が熱くなる。
乱暴に組敷かれ、素肌に触れられた。

キスすら未経験だった風間には、芹沢の与えてくる快感は過多で、抵抗する力を簡単に奪っていった。

「んっ……」

記憶を辿るにつれ、体が火照りだす。
正座していた足を崩して、膝を立てれば着物の裾が捲れ、風間はそろりと足の間に手を伸ばす。
下着を押し上げ反応しているそれに、布越しに触れて、身を震わせた。

他人に触れられた事など無かったそれを、芹沢の骨太く僅かにかさついた指が擦り上げ、先端を弄り回した。

頭を働かせる余裕など無かったに等しいのに、体が一つ一つ覚えている。

下着をずらすと、硬くなって先走りで濡れたそれがゆらりと起き上がる。

きゅっと握り、ゆるゆると扱くが、あの時に得た快感には遠く、風間は眉を寄せる。
芹沢に触れられた箇所を思い出し、着物の襟元から手を差し込み、指先で乳首を摘まみ、ぎゅうと引っ張れば、びりびりと電流のように背から脳へ快感が走る。

「あぁっ、……ん、」

手中のそれが嫌という程反応し、溢れてくる体液に益々濡れて、くちゅくちゅと水音が上がる。

「は、ぁっ……」

乱れていく吐息と、淫猥で粘着質な水音が、しんと静かな部屋に満ちていく。

「せ、り……沢、ぁ、」

甘えるような声が、求めるように名を呼ぶ。
風間自身は名を口走った事に気付いていないのか、己に快感を与える事に意識を向けて、自身の胸をまさぐる。

次第に快感は高まっていくものの、物足りなさに風間は瞳を潤ませる。

胸元から手を離し、扱く手を変える。
濡れた指先を屹立するモノの更に下へと伸ばし、固く閉じた窄まりへ触れて息を吐く。

「んんっ……!」

くっと指先を差し込み、ゆっくりと動かし始める。

ここも、芹沢は遠慮なく掻き回していった。
だが、最初は荒々しかった動きは風間を慮ったのか、すぐに優しい手付きとなり、ゆっくりと風間の内を探り、風間へ快楽を与えた。
指で慣らした後、自身の怒張で何度も突いてきた。

太い芹沢の熱塊が内壁を擦り上げる様を思い出し、風間の漏らす息はいよいよ艶を含み、切羽詰まったものへ変わる。

おそるおそる内側を探っていた風間の指先は、少しづつ大胆になっていき、指を二本に増やし出し入れを繰り返す。

「は、……ぅんっ」

屹立から溢れる滴が下の穴まで伝い濡らし、ぐちゅりと音を立てるが、風間の耳には、あの日己を抱きながらそれでも尚求めるように名を呼び続けた男の声が甦っていて、そんな水音は耳に届かない。

「んっ、……はっ、ぁ」

屹立の先端を指先でぐりっと抉るように動かし、風間は漸く吐精すると、指を引き抜いて、去った快感に脱力し横になる。


このままでは、身も心もおかしくなってしまう。

風間は直ぐに身を起こし、身形を整える。
元凶である芹沢に、とにかくもう一度会わなければ、と。

風間は数日悩み、ようやく行動を始めた。









up/2015.04.25

後編へ続く!

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